『BRUTUS』美しい言葉特集、発売です。
10月15日発売の『BRUTUS』673号は、特集「美しい言葉」。
今回記事を書かせていただいたのは、「村上春樹、美しいニッポン文学の未来。」「橋本治の、よくわかる美文講座。」そして「日本語の美しいデザイン。」である。えー、日本美術じゃないじゃん、などとはおっしゃらず、しばらくお付き合いいただきたい。
「村上春樹、美しいニッポン文学の未来。」は、高橋源一郎氏の解説による村上春樹作品の読み解きなのだが、ハルキ文学の批評は通常、内容からなされることがほとんど。しかし特集テーマは「美しい言葉」であるからして、中身ではなく、言葉の話をしなければならない。というわけで、高橋氏にはハルキ文学の「表現」の特徴について解説して下さい、と依頼した。ところが取材当日語られたのは、氏が最近講談社の『群像』誌上で連載を開始した「日本文学盛衰史:戦後文学編」最終回に予定しているという、ハルキ文学の驚くべき秘密だったのである。
いやー、びっくりしたなあ、もう。
という内容だったのだが、出し惜しみではなく純粋に紙幅の都合上、秘密の「核心その2」については記事に掲載することができなかった(核心その1は『BRUTUS』をお買い上げの上、誌面でご覧下さい)。数年後にやってくる最終回のネタ全部を割ってしまわなくて、結果的によかったというべきかもしれないが、それにしてもタイヘンにもったいない。なにしろレイアウトでは原稿用紙11枚分の文字数しかないのに、取りあえず載せたいことを全部書いてみたら、55枚分になってしまったという大ネタなのだ。
どういう内容か、数年後に件の最終回が発表されるまで待てない人のために簡単に書くと、要するに村上春樹がアムロ・レイで、大江健三郎がシャア・アズナブルだと言うような話だ(ホントか?)。
……しかしこういう記事を書いておきながら、実は私自身はハルキ文学にちーともシンパシーを感じられない人間なのである。現象としての村上春樹ブームにはとても興味があるけれども、入れ込んで読む対象ではないのだ。なにせ最近一番面白かった小説が、上村菜穂子『獣の奏者』完結編なんだから。
上村菜穂子(作家であるのと同時にアボリジニの研究者)については語りたいことが多すぎて困るが、これは私の学問的出自が日本美術史ではなく、文化人類学であることにも起因するのだろう。かつて文化人類学者である叔父(=モノンクル。中沢新一における網野善彦というか、要するに「僕の叔父さん」なのだ)の本棚で発見したカスタネダの「呪術師」シリーズは、本文が読めもしない未就学児童にとってさえ、途轍もなく衝撃的かつ魅惑的だった。なにしろタイトルが「呪師に成る」ですぜ(笑)。とにかく文化人類学というのはとんでもなくヤバくて面白い学問に違いないという幼い頃の刷り込みによって、大学で専攻するまでに至ったわけだが、その後流れ着いたのは日本美術の岸辺なのだから、人生はわからない。
というわけで、ニュータイプのハルキは今後も突っ走っていくだろうが、保守派のオールドタイプである私は、「時代が変わったようだな、坊やみたいなのがパイロットとはな」「ザクとは違うのだよ、ザクとは!」とうそぶき続けるだろう。ええ、オールド文学の重力に魂を引かれた、地球人ですから。
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