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金重有邦、酒器のマジック。

グラスによってワインの味や香りが変わるという。それは身をもって体験済みだけれども、グラスの形状の「変わり方」はその程度が非常に甚だしいから、そりゃ味が変わるのも物理的にあり得るよな、と納得しやすい。ひるがえって日本酒の酒器。たとえばあの小さい杯に、同じことができるとは思わなかった。酒屋でオマケにもらうロゴ入りグラスと、リーデルのソムリエシリーズ、グラン・クリュ(通称金魚鉢!)との「落差」に等しい味の変化が、遙かに小さな杯の中でも起こるのである。

現在、日本橋の「壺中居」で開催中の、「金重有邦─下戸の酒器─」展。昨日がオープニングだったので伺ったのだが、16時からのオープニングパーティ時には、ほぼ半数の作品にお買い上げの赤いシールが貼られている。金重有邦(かねしげ・ゆうほう)さんは1950年、備前の窯元の子として生まれた。山野をめぐって土を探し、轆轤を操る技術を磨き、器に豊かな表情を与える工夫を窯に加え、備前の陶工たちが桃山時代に達した高みへ、素材、技法、自らの技術を追いつかせる努力を続けてきた職人だ。

「茶陶、茶碗という巨大な山脈にはひときわ高く聳える頂きが2つあります。その1つがコンセプチュアルアートとしての茶碗。これは樂家初代の長次郎が極めました。もうひとつの頂きが、高麗ものを筆頭とする食器としての茶碗。この最高所に位置するのが喜左衛門井戸であり、僕は食器としての茶碗の山にこそ憧れ、登ってきたのです」

先日、お目にかかって取材させていただいたとき、こんなふうにおっしゃっていた。そして茶碗の内側の造形によって、お茶の味がどのように変化するのか、ということを教えていただいた。その金重さんが作る酒器。同じように味が変わるのである。

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パーティは金重さんの杯をいくつも並べ、それで自由に日本酒を飲んでもらう、という趣向。料理は天現寺の日本料理「青草窠(せいそうか)」が担当している(料理の話は別の機会に)。

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たとえばこの2つ。右は絵唐津、左は備前。顔を見るなり、金重さんに「あなたは酒飲みだから、これ」といって絵唐津の杯を渡された。同じ「住吉」という日本酒を注いで飲み比べると、絵唐津の方は丸みがあってふくよかな味だが、備前ではシャープでドライ。2つの杯に入っているのが違う酒だと言われれば納得できるが……。

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もうひとつ刷毛目で試すと、すっかり別物のドライな酒になってしまった。

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なぜそんなことが起こるのか。知りたい方はぜひ器をお求めになった上で、追求してください。私もひとつ、備前(伊部)の杯を買った。金重さん曰く、「これが一番基本の杯で、ぶれのない、素直な味になる。その後で右に左に揺れる味の変化を楽しめばいいんじゃないかな」だそうだ。

金重有邦 −下戸の酒器展−

会期:平成21年10月13日(火)〜17日(土)
時間:午前10:00〜午後6:00
会場:壺中居3Fホール

東京都中央区日本橋 3-8-5
03-3271-1835

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コメント

 こんにちわ。twitter経由でやって参りました。すぐにでも壷中居に行ってみたいのですが、下関在住なので。20年前は東京にいたんですが。
 味が変わるのは、お茶のように温度がかなり短い時間で変化するものについては、容器の形態の影響は大きいでしょう。温度ということについては、例えばネスカフェでも、100度の湯で溶いたものが70度(例えばの数値です)くらいになったときに飲む味と、最初から70度くらいの熱さの湯で溶いたときの味は微妙に違うような気がします。
 お酒を冷やで飲む場合、盃の形態の物理的影響より視覚的印象の方が味覚に影響を与えるのでは、という気がしますが、いかがお考えですか。金重さん自身は原因はどこにあると考えていらっしゃるのでしょう。
 ちなみに、ご存知かもしれませんが、福岡北九州市に「電光石火」という大変おいしい冷酒があります。蔵元以外では、たしか成田空港のショップでだけ買えるはずです。フルーティで実に、うまいです。

投稿: yukedon | 2009年10月14日 (水) 14時38分

二伸です。
 その形態に沿いながらお酒が酒器に満たされてゆくとき、お酒の組成に物理的変化が生じる可能性が気になり続けています。ミクロの単位での変化が生じるかも知れない。白隠の書を顕微鏡で見たら、墨の乗り方が常人のものとはまったく違うことが分かる、というようなことをどこかで読んだような気がしますが、たしかにミクロ単位のことは無視できない。
 それと、心理的な影響による味覚の変化については、酒器の形態そのものをわたしたちは、眼のほかには、指と唇で感じるわけですから、重さ、肌触り、指によるつまみ具合、唇触り(というコトバはありませんが)が、形態に応じて異なった心理的構えをわたしたちのうちに生じさせているのではないか、とも。
 頭で考えたことです。実際に金重先生のもので飲んでみなければ、はじまらないのですが。

投稿: yukedon | 2009年10月16日 (金) 15時36分

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