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2009年11月

「椀一式」プロジェクト [2]  箱と重

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撮影:石井宏明(このエントリーすべて)



「椀一式」プロジェクトの第2部がこちら。第1部に引き続き、松屋デザインギャラリーで2010年1月27日〜2月23日に開催される。

依頼のあった当初、デザインコミッティーの間で話し合われたのは、以下のような内容だった。

「伝統工芸品に安易にデザインを持ち込むことには皆、抵抗がある。伝統の形は誰かが意図して作れるようなものではなく、人々の暮らしの中で積み重ねられてきた遠大な営みの賜であることを経験的に理解しているからである。(中略)日常の無数の行為の堆積の中に伝統の形は育まれてきた。だから当初、飛騨春慶を用いて何か新しいものをと請われた時には皆、二の足を踏んだ」

「なすべきはデザインではなく、飛騨春慶の素晴らしさを見立て直すことではないかという思いであった。特に箱の数々は簡潔で美しく、新たなデザインの余地など見あたらない。もしこれが売れないなら、造形ではなく、暮らしの中でそれらをどう使うかという見立てが不足しているからだ」単行本『椀一式』前書き(原研哉)より

最終的に第1部は昨日のエントリーでご紹介した「椀一式」を新たにデザインし、第2部は同じメンバーが、それぞれの目で製品を見立て、使い方を含めて提案するという構成になった。単行本も後半は「箱と重」として、この美しい箱の数々を写真とメンバーのテキストによって紹介している。 

   

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第662回デザインギャラリー1953企画展
飛驒春慶×日本デザインコミッティー 「椀一式 ー 使う漆器へ」
2010年1月27日〜2月23日
松屋7階・デザインギャラリー1953

東京都中央区銀座3-6-1 電話 03-3567-1211(大代表)
共催:日本デザインコミッティー、(財)飛驒地域地場産業振興センター、(財)岐阜県産業経済振興センター デザインセンター(通称:オリベデザインセンター)

展覧会担当:原研哉(プロジェクト+展覧会+書籍のディレクションを担当)
出展:飛驒春慶ひのき会
 代表:日進木工(株)代表取締役 北村 斉
 職人:中屋憲雄、西田恵一、滝村紀貴、矢島浩(日進木工)、他

参加デザイナー(日本デザインコミッティーメンバー):深澤直人、原研哉、岩崎信治、川上元美、小泉誠、黒川雅之、松永真、佐藤卓

■問い合せ先
日本デザインコミッティー事務局
東京都中央区銀座3-6-1松屋北館4F
電話03-3561-2572 F03-3561-6038 
e-mail:jdcommit@yb3.so-net.ne.jp
URL : http://designcommittee.jp/
担当:土田真理子、樋口珠由子

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「椀一式」プロジェクト [1]

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撮影:石井宏明(このエントリーすべて)



予告だけしてそのままになっていた「椀一式」プロジェクト、やっとご紹介できるところまでたどりついた。私自身は書籍の編集、執筆を担当している。

これは岐阜県の産業支援機関である(財)岐阜県産業経済振興センター デザインセンターの委託を受け、2008年度から日本デザインコミッティーが飛驒春慶塗の職人たちと商品開発に携わってきたプロジェクト。

一般的な漆塗として知られる黒漆、朱漆に対して、木目の美しさを見せる透明な漆塗の技法を代表するのが、飛騨の地に蓄積されてきた高度な木工の技術と質の高い木材、そしてそれを活かす透漆塗の技法とが五分で結びついた飛騨春慶である。

江戸時代初期に飛騨を領国とした大名・金森家から出た茶人の金森宗和とゆかりが深く、茶道宗和流と結びついて発展してきたが、近年では使われる場面が激減、衰退の一途を辿っている。

この春慶塗の可能性を追求すべく、日本デザインコミッティの8人が商品開発のプロジェクトに参加した。

ディレクションを担当した原研哉による制作のテーマは、「椀一式」。

重箱や茶道具のような、普段の生活から遊離した対象物ではなく、最も身近な「汁椀」であれば、無理な背伸びをしなくてもデザインできる。現代の日本の暮らしに最も密接な漆器は「汁椀」だからだ。どうせならそこにふさわしい「飯碗」を見立てて盆というステージに載せ、箸を添えて「一式」としてしつらえてみようという趣向である。

 日常使いの「汁椀」と「飯碗」ならば、少々値が張っても買い求め、日々の食卓に供するゆとりは持ちたい。日本人なら皆、潜在的にそう思っているはずだ。だからこれを「椀一式」のしつらいと称して、余裕のある大人の一つのたしなみとして提案する。おそらくは「夫婦茶碗」という言葉が陶磁器の世界で果たしてきたような、ささやかだが根強い広告効果のようなものが、「椀一式」という言葉にも宿るかもしれない。そんな風に考えたのだ。

単行本『椀一式』前書きより(原研哉)

深澤直人、原研哉、岩崎俊治、川上元美、小泉誠、黒川雅之、松永真、佐藤卓の8名が、この企画に参加。汁椀、箸、盆の3アイテムをそれぞれデザインし、飯茶碗は岐阜県内の窯から選んだ陶器を組み合わせている。

購入可能な8種類の作品は、2009年12月27日(日)〜2010年1月25日(月)まで、松屋7階・デザインギャラリー1953での飛驒春慶×日本デザインコミッティー「椀一式 − 使う漆器へ」展で展示され、展覧会と合わせて同タイトルの書籍も刊行される。さらに、2010年1月14日(木)銀座3丁目・アップルストア銀座で、原研哉、小泉誠らによるトークショーも開催される。

このブログでは真俯瞰の写真しかご紹介できないのだが、書籍では写真家・石井宏明さんが下から横から舐めるように撮影された作品写真、さらに下北沢の日本料理店「七草」店主、前沢リカさんに料理制作を担当していただき、それぞれの作品に盛りつけた状態で撮影した写真などをたっぷりご覧いただける。

さらに原研哉さんと平松洋子さん、黒川雅之さんと西田恵一さん(木地師)、滝村貴紀さん(塗師)による鼎談、小泉誠さんと佐藤卓さんによる対談なども収録され、読み応えも十分。展覧会と併せてお楽しみいただきたい。

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深澤直人

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原研哉

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川上元美

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岩崎信治

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黒川雅之

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小泉誠

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松永真

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佐藤卓


【展覧会】
第661回デザインギャラリー1953企画展
飛驒春慶×日本デザインコミッティー「椀一式 ー 使う漆器へ」

2009年12月27日(日)〜2010年1月25日(月)
松屋7階・デザインギャラリー1953

東京都中央区銀座3-6-1 電話 03-3567-1211(大代表)
共催:日本デザインコミッティー、(財)飛驒地域地場産業振興センター、(財)岐阜県産業経済振興センター デザインセンター(通称:オリベデザインセンター)

展覧会担当:原研哉(プロジェクト+展覧会+書籍のディレクションを担当)
出展:飛驒春慶ひのき会
 代表:日進木工(株)代表取締役 北村 斉
 職人:中屋憲雄、西田恵一、滝村紀貴、矢島浩(日進木工)、他

参加デザイナー(日本デザインコミッティーメンバー):深澤直人、原研哉、岩崎信治、川上元美、小泉誠、黒川雅之、松永真、佐藤卓

【書籍】
飛驒春慶×日本デザインコミッティー「椀一式 ー 使う漆器へ 」

発行:日本デザインコミッティー
ディレクション:原研哉
編集協力:橋本麻里
写真:石井宏明
出版社:実業之日本社
A6判/151ページ/2010年1月1日発売予定
販売価格:2000円前後

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新たなアートフェア、G-tokyo 2010 。

来年1月末に予定されているコンテンポラリーアートフェア《G-tokyo2010》について、そろそろ情報解禁、ということなので、お知らせを。

この数年、日本でもそれなりに「アートフェア」が開催され、アートを売る、買うことの裾野が広がってきたとは思うが、広がったがゆえの「薄まり」感は否めない。焦点がぼけ、安手のバザー会場化しつつあるフェアも見受けられるし、一部ギャラリーにその種のフェアからの脱退の動きが顕著になっていることも事実だ。

この緩んだタガを締め直し、多少敷居を上げてでもクオリティを確保しようというのが、G-tokyo2010である。参加ギャラリーは厳選15軒(アラタニウラノ、ギャラリー小柳、ギャラリーSIDE2、ヒロミヨシイ、ケンジタキ ギャラリー、児玉画廊、小山登美夫ギャラリー、ミヅマアートギャラリー、オオタファインアーツ、SCAI THE BATHHOUSE、シュウゴアーツ、タカ・イシイギャラリー、TARO NASU、ワコウ・ワークス・オブ・アート、山本現代)、しかも各ギャラリーのブースは単に作品を並べるのではなく、それ自体企画展にもなっている、というもの。

実行委員会からは「隠し球があるのでお楽しみに」とも聞いているので、以後の情報も随時チェックしていただきたい。

追加情報(11月29日)
■ミヅマアートギャラリー
山口晃個展「柱華道(仮)」。景観を損なう嫌われ者として扱われることの多い電柱を、華道の様式に見立てて表現する。アサヒビール大山崎山荘美術館での個展〈さて、大山崎〉での発表作品をふくらませ、電柱に関するテキスト、ドローイングや初公開の立体によるインスタレーションを中心に展示する。

■タカ・イシイギャラリー
身近でありながら神秘的な現象「雨/Rain」に対し、それぞれ異なるアプローチを試みた3名の作家の作品を展示する。トーマス・デマンドは《Regen/Rein》において、雨をキャンディの包みで表現。メディアのつくり出す虚構が、我々の現実の認識に及ぼす影響を考察する。

また畠山直哉が2001年の英国滞在中に制作した《slow/glass》は、ボブ・ショウのSF文学に触発され、自動車の窓ガラスと雨を題材に、写真における「時間」の謎に挑んだ作品だった。今回展示される《slow glass/tokyo》では、建造物の窓ガラスと雨を題材に、時間、そして都市に生きる人間の心性を探る。

そして水滴に映り込む風景の美しさを追求したピーター・キートマンは、1950年代のヴィンテージプリント作品を展示

■オオタファインアーツ
樫木知子(京都市立芸大博士課程)、猪瀬直哉(藝大油画専攻)、梅田哲也、さわひらき&南隆雄という、2008年3月に勝ちどきへ移転してから加わった若手作家中心の組み合わせ。


G-tokyo 2010

2010年1月29日(金)〜31日(日)  開催予定のコンテンポラリーアートフェア《G-tokyo2010》のコンテンツが一部決定いたしましたのでお知らせいたします。

《G-tokyo2010》は従来のバザー型フェアとはスタイルを異にする、明確なテーマに基づいた展覧会形式のユニークなアートフェアです。規模ではなく質の追求を第一とし、国内トップの15ギャラリーのみによって構成されます。鑑賞する楽しみ、質の高い作品を購入する楽しみとを、同時に体験できる場を演出いたします。

また《G-tokyo2010》は芸術の最大の理解者であり、芸術が常に空気のようにメゾンに溢れているエルメスを特別協賛に迎えました。  

《G-tokyo2010》は世界のマーケットを知る国内のリーディングギャラリーがタッグを組んで作り上げた最先端のアートの現場。ここに足を運ぶことで、今何が起きているのかを体感していただけるはずです。アートに関心を持ち始めた方から経験豊かなコレクター、そしてアジアをはじめとする海外からのアートファンまでが参集する特別な場所を目指していきます。


【G-tokyo 2010 とは】

これまで国内で開催されたさまざまなアートフェアとは一線を画し、日本の現代アートの流れを牽引、世界規模のアートシーンに参画してきたトップギャラリーのみで構成される、コンテンポラリーアートフェア。明確な価値基準を持つ国内外のコレクターや美術関係者に、今まさにアートのフロントラインを形成しつつある作品を提供することを共通の目的に、第1回目は六本木ヒルズ・森アーツセンターギャラリーを会場に、国際的なアートマーケットのダイナミズムを肌で知る15ギャラリーが集結します。最大5×6mのゆったりとしたブースを設けて展示される、個展または企画展形式の15のギャラリーショウが、本フェアの見どころとなります。

■公式ウェブサイト
G-tokyo 2010

■会期
2010年1月30日(土)、31日(日) 一般公開、29日(金)はご招待者のみ。 
10:00-11:00 予約制プライベートビュー(予定)/11:00-20:00一般公開(予定)

■会場
森アーツセンターギャラリー
    (東京都港区六本木6-10-1  六本木ヒルズ森タワー52F)

■入場料
一般1,000 円(当日券のみ販売)

■主催
G-tokyo 2010 実行委員会

■特別協賛
エルメスジャポン

■協力
原美術館、森美術館、サントリー美術館、グランド ハイアット 東京

■メディアパートナー
アートイット

■参加ギャラリー
アラタニウラノ、ギャラリー小柳、ギャラリーSIDE2、ヒロミヨシイ、ケンジタキギャラリー、児玉画廊、小山登美夫ギャラリー、ミヅマアートギャラリー、オオタファインアーツ、SCAI THE BATHHOUSE、シュウゴアーツ、タカ・イシイギャラリー、TARO NASU、ワコウ・ワークス・オブ・アート、山本現代 (アルファベット順)

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世界で一番美しい傘。

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蛇の目(草色/男持ち)                


まず最初にお断りしておくが、この和傘は電話やインターネットでは「お取り寄せ」できない。石川県金沢市にある店まで足を運び、店主である職人に相対して、自分の望む仕様を伝えて完成を待つか、その時在庫であるものを購入するか、である。

別にお高くとまっているわけではなく、商品の性質上、また80歳をとうに過ぎた職人が独り守る店では、そうでなければ対応できないのだ。だが実際ものを目にすれば、この店の和傘がそれだけの手間と時間、価格に十分見合うものだとおわかりいただけるはずだ。

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黒輪(菖蒲色/男持ち/35,000円)


和紙を透過する光と色を操り、構造となる竹の骨にさえ意匠を凝らし、円形のフォーマットの中でグラフィックの冴えを見せつける。笠(柄がない庶民の生活用具)で足りるところを敢えて「傘」の贅沢をする江戸の町人文化として、傘のデザインは花開いた。江戸、京都、大阪、岐阜へと広がった産地の中で、金沢和傘の伝統を守るのは、松田和傘店ただ1軒である。

かつて和傘は約20種からなる工程を分業で製作していた。ところが洋傘が普及するにつれ、次々と職人が廃業。職人の松田弘氏は、竹を細く割り、骨を削る加工だけは専用の道具が必要になるため、岐阜の骨屋から仕入れているが、あとは構造を組み立て、紙を裁断して張り、油を塗って仕上げるまで、全工程の技術を修得し、製作を行っている。


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名称不明(武家の隠居や高位の僧侶が持つ/菖蒲色)

「傘が売れなかったから今日まで在庫が残ってしまった」手漉きの和紙は、なんと戦前から寝かせてあるストック。色味も風合いも、新品には真似のできない格を傘に与えてくれる。

年配の武家の男性が持つなら、黒と見紛う菖蒲色(あやめいろ)一色の傘。商家の奉公人なら家号入りの番傘だし、神職が持つ傘は白一色で、強度を出すために縁をかがる小糸の色と意匠で格式を演出する。

本来、色や形状は持ち手の社会的な立場に合わせて決まってくるものだが、そこは21世紀の有り難さ。いかようにも、自分好みのデザインで発注すればいい。

 

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元禄蛇の目(菖蒲色/男持ち/64,500円)

最初にこの店を訪れたのは、資生堂が顧客に送付するパンフレットの表紙スタイリングをやっていた2006年のこと。伝統工芸品をモチーフに、06年は上田義彦氏が、07年は青木健二氏が撮影を担当された。

初めて訪問した日、金沢は前夜からの雪は止んだものの、どんよりとした薄曇り。店先で何本も傘を開き、神職用だという真っ白い傘を手に取ったとき、どうしてもそれを陽光に透かしてみたくなり、松田さんのお許しを得て店の外へ出た。

雲の切れ間からわずかに漏れる光を、降り積もった雪がぼんやりと照り返す。油を塗って半ば透けた和紙が、その柔らかく曇った光を透過させるさまは、大理石の内部で光が乱反射している状態と、よく似ていた。

どこの伝統工芸品店でもあることだが、この種の「普遍的なデザイン」にたどりつくまで、加賀友禅の職人が花の絵を描いた傘だのなんだの、泣きたくなるほどファンシーな「売れ線商品」をかき分けていかなくてはならない。

ファンシーが売れて、普遍が売れないとなれば、マーケットの論理に逆らえない一職人が、ファンシー寄りの製品へ傾いていくのを止めることはできない。

私自身は職人にあれこれ注文をつけてオーダーし、身銭を切って製品を購入(だから『Casa BRUTUS』での「ニッポンの老舗デザイン」シリーズは常に稿料を製品購入代が上回ってしまう、「逆ざや」連載なのだ)することで、「こういう方がいいんじゃないの」という意志を伝えているつもりだが、それはやはりニッチな需要でしかないのだ。

というわけで、本記事をご覧になった皆さまが、オラファー・エリアソンの展覧会を見たついでに松田和傘店へ大挙して足を運び、スタンダードな蛇の目傘をじゃんじゃん購入していただけると、職人は収入が増え、日本の伝統デザインも生き延びられて八方ハッピー、なのだけれど、いかがだろう。

撮影:久家靖秀
Casa BRUTUS「ニッポンの老舗デザイン」第9回用に撮影していただいたものの中から未使用分も含めてご紹介。この湿度の低さが久家さんの持ち味です。傘がクール!

■松田和傘店
石川県金沢市千日町7-46●076-241-2853、9時〜17時、不定休 
オーダーは直接店に出向き、松田氏と詳細を打ち合わせて決定する。納期3〜4カ月。同じものを同時に2〜3本作っておくことも多く、その「在庫」で気に入ったものがあれば、すぐ購入できる。

参考図版:
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ちなみにこれが上田さん撮影のDMの表紙。手前の白い傘が神職用である。
縁をかがった緑の糸が、見えるだろうか。そういえば自分では購入しなかった
けれど、赤い蛇の目もありました。

 

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御礼。

10月半ばから始めたよちよち歩きのブログですが、おかげさまで累計1万アクセスを超えました。ご愛読に心から感謝申し上げます。

来年1月20日発売予定の『CREA Traveller』初の国内特集、「最上級の京都(仮)」を筆頭に、『Casa BRUTUS』、『和樂』、『考える人』、『ミセス』、『ポンツーン』各誌での連載、『BRUTUS』での単発記事など、年内も締切山積ではありますが、なるべく頻繁に更新できるよう努力して参りますので、どうぞ今後ともよろしくおつきあい下さいませ。

東雲堂主人 拝

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ガラスの靴、じゃなくて椅子。

Casa BRUTUS連載「ニッポンの老舗デザイン」、次号(2010年1月号)は三保谷硝子を取り上げたが、三保谷友彦社長へのインタビューで伺ったお話の中で、記事に入れられなかったエピソードをひとつ。

故・倉俣史朗による「Glass Chair」(1976年)は、ガラス同士を接着できるUV接着剤が開発されたことを知った倉俣氏が、30分で書き上げたスケッチを元に制作されたことは、よく知られている。

さて、特急でできあがった椅子にまず誰を座らせるかという段になって、倉俣氏が選んだのは「誰よりもエラそうな姿勢で椅子に座る」あのお方、そう、石岡瑛子女史だった。

ガラスが持つ「割れるかもしれない」という恐怖感(倉俣氏曰く期待感)から、普通の椅子のようには座れない──というのが、この作品の重要なコンセプト。

倉俣氏の要請に応えて飛んできた石岡女史は、ガラスの椅子を一瞥すると「尻にでき物ができたみたいに(三保谷友彦氏談)」こわごわと腰を降ろした。それを見た倉俣氏と三保谷氏は「勝った!」と小躍りして喜んだそうだ。もちろん、椅子がバラバラに壊れたという記録は、どこにもない。

ちなみに次号の『和樂』で、倉俣事務所に保管されているデッドストックの香水瓶が限定販売される模様(三保谷さんは「あんな高いの売れないよ」と言ってましたが、ファンはほしいでしょ?)。詳細わかり次第、ブログにアップします。

註:「Glass Chair」は文字通り板ガラスを接着した作品で、よく混同される「Miss Blanche」はアクリルに造花を封入したもの。詳しくはリンクした参考画像でご確認下さい。

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原研哉 「白」 meets Olafur Eliasson

オラファー・エリアソンつながりで、もうひとつニュースを。

グラフィックデザイナーの原研哉さんが2008年に刊行した日英併記の著作『』の英語版、ドイツ語版が、スイスの出版社Lars Müller Publishersから刊行されたのだが、その帯文はオラファーが書いている。

Today, we seem to be experiencing a rationalisation of the senses. The art of refinement has been half-forgotten, and attentiveness to detail, absorption, and slow engagement are neglected. In his captivatingly light text on the concept of “white,” Kenya Hara counters this tendency. His personal journey through concepts, objects, and practices such as emptiness, paper, and the Japanese tea ceremony not only opens up a field of heightened nuance and refinement. By melding everyday observations with reflections on Japanese aesthetics and sensitivity, he also amplifies the need to critically revise our understanding of the senses. This important little book thus challenges the simplifications that inform much present-day thought concerning what can be felt, experienced, and emotionally negotiated.

Olafur Eliasson

今日の我々は、五感を理屈で理解しようとしているように思える。感覚を研ぎ澄ますことを半ば忘れ去っている。細部にまで注意を払うこと、集中し没頭すること、ゆっくりと事を行うことを軽んじている。原研哉は、素晴らしく軽妙な筆致で「白」という概念を語りながら、こうした風潮に異を唱えている。エンプティネス、紙、茶道など、コンセプトやモノ、あるいは、実際の行動によって展開する彼の私的な旅は、研ぎ澄まされたニュアンスや洗練への地平を拓くにとどまらない。彼は、また、日々の観察に日本的な美意識と感性への思いを融合させることによって、五感に対する我々の理解を大きく修正する必要があることも知らしめている。この小さくて重要な本は、かくして、何が感じ取られ、実感され、情感を伴った交流がなされていくことができるかについての今日的な考え方をシンプルに伝えていくことにチャレンジしているのである。

前著『デザインのデザイン』の英語版『Designing Design』も同社から刊行されており、その時の帯文はリ・エーデルコート、ジョン前田、深澤直人、ジャスパー・モリソンの各氏だった(ちなみに『白』日本語版の帯文は内田樹、茂木健一郎の両氏)。

と、思ったらジャスパーが金沢でのオラファー・エリアソン展の二次会に来ていた。オラファーとジャスパー、エリアソンとモリソン、蟹をつつきながら仲良く話し込む脚韻コンビ。

ちなみに私は本作掲載の黒樂茶碗、長次郎「勾当」(樂美術館蔵)の撮影コーディネーションを担当している。撮影は上田義彦さん。 

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Lars Mueller Publishers, 2,658円、2009年12月1日


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中央公論新社/四六判/128頁/税込1,995円/2008年5月30日

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オラファー・エリアソン 虹と霧のバラード。

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「あなたが創りだす空気の色地図」 人工的に発生させた霧で満たした展示室をRGBカラーモデルにある赤、緑、青の三原色が照らし出す。色域が境界上で混ざり合い、移動するにつれて視野を占める色が移ろっていく。今回の展示のクライマックス。この作品を体験するためだけにでも、金沢へ行く価値あり。それにしても人工の霧をつくり出すドイツ製のhaze machineは優秀&不思議だ。「霧」の成分はなんなのだろう。湿度はほとんど感じないし、もちろん健康面でも問題ないというけれど…。オラファとしては館内全体を霧で覆いたかったようだが、諸般の事情で断念。一時的にその状態にして図録用の撮影を行っているので、図録の完成を楽しみに待ちたい。



オラファー・エリアソンによる大規模な個展 "Your chance encounter(あなたが出会うとき)"が、金沢21世紀美術館で始まった。

今展は開館5周年記念展として企画されたもので、SANAAによる建築の水平性、回遊性、透明性を生かし切ったサイトスペシフィックなインスタレーションが、新作を中心に18件展示されている。

オラファー・エリアソンは2003年、テート・モダン(ロンドン)のタービン・ホールで発表した《The Weather Project》によって一気に世界中で知られるようになった作家だが、日本ではまさにその03年、21世紀美術館開館時のコレクションに加えられてお り、06年には原美術館で「影の光」展も開催された。

オラファーの作品は光、影、色、霧、風、波などさまざまな自然現象を分解、再構成して人間の知覚を揺さぶり、認識の組み替えを迫る。

だがそれを「自然」現象という言葉で表現すると、少し印象が違うかもしれない。オラファーの作品に接すると、それは私たちが日頃、光、影、色、霧、風、波 という文学的なイメージと共に認識することがらとしてではなく、物理法則に従って生起し、感覚器によって知覚し、最終的に脳の情報処理過程で情動と連動さ せながら認識している、気象、あるいは物理現象のひとつだったのだと、再確認させられる。

にもかかわらず、というか、だからこそ、というべきか、オラファーの作品には私小説風のウェットな物語性は微塵もない代わりに、優れた科学的知見や科学者自身が備えているのと同じ詩情が豊かに、霧のように立ちこめている。

いずれにせよ、生身の身体をその場におき、自らの感覚器で知覚しないことには理解できない作品ばかりなので、3月22日までになんとかして金沢まで足を運んでほしい。これほどさまざまなバリエーションの作品に、国内で触れることができる機会はしばらくないだろうから。



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「スターブリック」 スタッキングできる照明。ドイツのツムトーベル・スタッフ社の製品で、1基30万円程度で販売されている。「おうちにひとついかが?」と勧められたが、1基だけあってもサマにならない。壁面にびっしり積み上げる、とかしないと…。

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「動きが決める物のかたち」 精密なCGかと思ったら……

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リアルな3次元の回転体を投影している。

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「見えないものが見えてくる」 霧で満たされた縦長の展示室の端から、途中ガラスの箱を通過させた強力な光条が放たれている。その光の前を横切ろうとすると、物理的な圧迫感させ感じさせられる。

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「色のある影絵芝居」 光源と万華鏡のような立体的なスクリーンの間に人が立つとご覧のような影絵が映る。

 

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「ゆっくり動く色のある影」 オラファーは展示室内に「機構」をむき出しで設置するため、この作品も見てみれば拍子抜けするほどシンプルな原理に基づいて設計されたことがわかる。同時に作品化されるまでに気が遠くなるほど精緻な検証が行われたであろうことも。だいたい物理法則というのは単純な式で記述されるものほど深遠で美しいと相場が決まっている。E=MC2とか。

 

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「水の彩るあなたの水平線」 展示室中央に水盤が設置され、そこから投射される(いったん水中で反射、屈折が起こっていると思うのだが)光が壁面に極光を描き出す。

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「ケプラーは正しかった自転車」 ヨハネス・ケプラー(1571〜1630)はドイツの天文学者にして占星術師。「完全なる神は完全なる運動を造られる」として、コペルニクスやガリレオも脱却できなかった惑星の円軌道説を否定、楕円軌道説を提唱したわけだが、この作品はそのあたりに基づいているのでしょうか。作家に聞いてみないとわかりません(笑)。ちなみに主著〝Harmonice Mundi 〟は『宇宙の調和』として工作舎より09年に刊行された。ラテン語原典より本邦初の完訳。

 

図録は会期中に(たぶん)刊行される予定。オラファー自身が図録全体のディレクションを希望し、作品写真も設置の終わった一昨日(19日)に自ら撮影したそうだ。

もちろん巡回もない。共催できれば経費を分担できるため美術館としては楽になるのだが、この館のために(建築ばかりではなく、この館を包含するコミュニティ全体も含めて)企画された展示であるため、他館への移設は不可能であるとして、これもオラファーによって却下された。

 

Olafur Eliasson "Your chance encounter"
オラファー・エリアソン - あなたが出会うとき

2009年11月21日(土)~2010年3月22日(月)
10:00〜18:00 (金・土曜日は20:00まで/1月2、3日は17:00まで)


会場
金沢21世紀美術館
展示室6〜12、14


休場日:
毎週月曜日(ただし、11月23日、1月11日、3月22日は開場)、
11月24日(火)、12月29日(火)~1月1日(金)、1月12日(火)料金:

料金:
一般=1,000円
大学生・65歳以上=800円
小中高校生=400円

お問い合わせ:
金沢21世紀美術館
TEL 076-220-2800

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ひたすら入稿中…。

現在絶賛入稿中につき、ブログ更新まで手が回りません。

日本デザインコミッティー主催の展覧会(+書籍)「椀一式」についてや、お手伝いしている日本料理店「青草窠」のことなど(ミシュラン2ッ星取得。混まないでほしい…)、ネタも溜まっており、美味しいうちにお出ししたいとは思っているのですが。取りあえず、19日夜〜20日にかけて更新の予定です。

現況はTwitterにてご報告しています。
http://twitter.com/hashimoto_tokyo

東雲堂主人 拝

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須田悦弘さんのアトリエ。

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木彫でリアルな植物(タイサンボクやテッセン、チチコグサモドキにいたるまで)を彫り出し、サイトスペシフィックな展示を行う現代美術作家の須田悦弘さんとは、2002年のBRUTUS「日本美術? 現代アート!」特集とAERA「ART BIT」相乗り企画で、唐招提寺の建築+仏像とコラボレートしていただいて以来のおつきあい。

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AERAでは講堂(国宝)の柱に空いた古い釘穴に雑草を挿してもらい、BRUTUSでは梵天像(国宝)の足下に夏椿を置いて撮影。当時は10年がかりの金堂修復工事が始まってすぐ(2000年〜)だったが、こちらもめでたく今年の11月1日、落慶法要が営まれた。

大倉集古館での展覧会「拈華微笑(ねんげみしょう) 」で、普賢菩薩像(国宝)と雑草、というコラボ展示をしたのもこの年だから、須田悦弘×古美術、のスタート地点から見ていることになる。

以前から作品集があればいいのに、作ってくださいよ、という話は繰り返ししていたけれど、それが近いうちに形になるところまで漕ぎ着けた(あとはテキスト部分をお手伝いさせていただいている私が担当分を仕上げれば……)。

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須田さんの仕事机。東京国立博物館で最近見てきたばかりの「紅白芙蓉図」(南宋、国宝)のポストカードや資料写真、彫刻刀、着採用の筆などが無造作に置かれている。

というわけで、先日須田さんの自宅兼アトリエにお邪魔したのだが、集合住宅でいかにご近所に迷惑をかけず材料を切り出すか、タイサンボクやシャクヤクなど、花弁の多い大型の花卉がどんな構造になっているのか、その制作のヒミツをいろいろ教えていただき、非常に楽しい取材となった。

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鉈を材木(朴の木)に当てて、万力にセット。

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締め付けていくと、木の目に沿って板が割れる。この薄板から花弁や葉を削り出す。床置きした材木を鉈で上から下へパカンと割るのでは、音が大きすぎるために編み出したワザ(笑)。

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シャクヤクの花はこんな風に分解できる。茎と葉のパーツ。茎の中心に軸を差し込むようになっている。

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花弁は1層、2層、3層に分かれており、1枚ずつ別々に彫った花弁を軸を中心に貼り合わせる。 

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組み立てるとこうなる。

須田さんが木彫にハマるきっかけとなった伝説の処女作は、植物ではなくなんと「スルメ」。久しぶりの「再会」だが、さすが「スルメ」感満点。

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この作品を作ったのは多摩美の1年生の時。思いの外うまく彫れたことに気をよくして、本物のスルメの匂いまでつけたという。

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やはり学生時代に彫った雑草。これにくらべれば、現在の作品には格段の技術の進歩が見て取れる。制作スピードもずいぶん上がったという。職人的な技術の進歩と、作家的な表現のコントロールの問題については、作品集内のインタビューにて。

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卒業制作のタイサンボク。学生時代からこの花が好きだった。 

卒業後、就職するか作家の道を進むか迷った須田さんは、とりあえず就職を選択。日本デザインセンターにグラフィックデザイナーとして採用されるのだが、その面接試験に持って行ったのが、この「スルメ」だった。ちなみにそのときの面接官の一人は原研哉氏。内心「大丈夫かなこいつ」と思っていたと、原さんから伺ったことがある。

結局デザインセンターはぴったり1年で退職、今日の作家・須田悦弘があるわけだが、その紆余曲折は作品集でお読みください。

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金曜日は「来ん」曜日。

ロケ、原稿、ロケ、原稿、原稿、ロケの毎日につき、ブログを更新している暇がない。Twitterにぼちぼち近況報告するのが精一杯。しかし今日、醍醐寺さんで聞いた話は皆さまの役に立ちそうなので、ブログにアップしておく。

それが京都土産物業者に伝わる箴言、「金曜日は『来ん』曜日」である。

仕事では週末に京都を訪れることはほとんどないのだが、世の中的には当然週末の人出が最大となる。

先週が修学旅行のピーク、来週が紅葉見物のピークということで、今週はやや落ち着き気味の京都だが、金曜日の醍醐寺はひっそりしていた。お寺の方の話では、金曜夜に移動し、土日月と仕事を休んで観光するパターンが最も多い、とのこと。だから金曜の日中は人出が少なく(=「来ん」曜日)、観光の穴場タイムなのだ、という理屈だった。

私にとって月曜は美術館の休館日だから旅行の日程からは外す、という考え方なのだが、確かにお寺であれば年中無休で開いている。土日月は十分あり、なのかも。

というわけで、この秋京都観光のご予定がある方は、あえて空いている(可能性のある)金曜に賭けてみるのもいいかもね、という「京都コンフィデンシャル」でした。

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杉本博司 講演会 立教大学・2009年度連続公開シンポジウム

もいっちょ告知。

本日のトークイベントは仁義なき座席争奪戦が繰り広げられたようですが、今秋はもう1回チャンスがあります。特に立教大学関係者は有利かと。

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2009年度連続公開シンポジウム 《未来の声を聴こう》 文学部主催
アートの起源

日時     2009年11月14日(土)14:00〜16:00

場所     池袋キャンパス 5号館5121教室

講師     杉本 博司 氏(写真家)

【講師略歴】
1948年、東京都生まれ。中学校時代からカメラに親しみ、立教大学経済学部卒業後に渡米、ロサンゼルスのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインにて写真を学ぶ。作品は1970年代後半から高い評価を集め、現在はニューヨークを拠点に活動している。1996年メトロポリタン美術館で個展「スギモト」を開催。建築設計にも関心を示し、2002 年、瀬戸内海直島に護王神社を設計。2001年、ハッセルブラッド国際写真賞受賞。2009年、高松宮殿下記念世界文化賞受賞。

対象者     本学学生、教職員、校友、一般

内容     現在、芸術の諸領域は世界各地域において社会と文化の批判的鏡の役割を果たすようになっています。世俗化と政治化に貫徹されるグローバリズムの潮流に対抗する精神性の拠り所となっているといえましょう。講師にお招きする杉本博司氏は、写真と建築の領野において精神性の深みを追求するアーティストとして世界的に高く評価されています。批判の根拠を喪失しつつある今日の文化状況にアートはいかに対抗するか、ここに氏のお考えをうかがう機会が得られることは、立教生にとっても、また一般の方々にとってもこの上なく有意義なことと考え、本講演会を催します。

受講料     無料

申込     不要

主催     立教大学文学部

問合せ先     立教大学人文科学系事務室

TEL:03-3985-3392

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セミナー「建設現場責任者・豊田郁美が経験した、安藤建築」

ウェブサイトをお手伝いしているベネッセアートサイト直島にて建築セミナーが開催されます。以下、直島の担当者の方からの紹介ですので、ご興味のある方はふるってご参加下さい。

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安藤建築を、どう造り込んだのか。
建設現場責任者・豊田郁美が経験した、安藤建築

2009年12月11日 (金) 14:00~12日 (土) 12:00 (終了予定)
ベネッセハウス(香川県香川郡直島町琴弾地)

安藤建築を具現化してきた第一人者と言っても過言ではない
鹿島建設建築工事部長の豊田さんのレクチャーと現地案内です。

「ミュージアム」のコンクリート壁って、豊田さんにしてみると
不本意らしく・・・それは何故かとか、
オーバルの池から水を均等に溢れさせるためにはどんな苦労があったかとか、
それらの技術と経験の蓄積が地中美術館にどう生かされているのかとか・・・
安藤ファンや建築マニアにはたまらない企画だと思います。

詳しくは以下をご参照下さい。

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ガラス 虎の穴、三保谷硝子店。

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『Casa BRUTUS』での連載「ニッポンの老舗デザイン」用に、AXISでの「三保谷硝子店──101年目の試作」展(会期終了)と、西麻布の店を取材させていただいた(撮影しているのは写真家の久家靖秀さん)。故・倉俣史朗のデザインを支えた三保谷硝子店は、建築家やデザイナー、アーティストたちが大手のメーカーでは不可能といわれた難題に取り組み、見事に解決してきた日本随一の「ガラス虎の穴」である。

以下、日頃三保谷硝子店と交流のある17組が出展。アシハラヒロコ/五十嵐久枝/海藤春樹/川上元美/近藤康夫/杉本貴志/杉本博司/高松 伸/トラフ建築設計事務所/橋本夕紀夫/廣村正彰/藤塚光政/堀木エリ子/宮島達男/八木 保/山田尚弘/吉岡徳仁

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倉俣がかつてアクリルで制作した「ルミナス」を、最新の成型技術を用いることで、素材をガラスに置き換えて制作。三保谷友彦社長による「倉俣オマージュ」だ。自重で自然に垂下する曲面を作るのはカンタンだが、床と(ほぼ)並行の座面を作り出すのは、一筋縄ではいかない。


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カメラのレンズに使われる光学ガラスを砕いて板ガラスの直方体の中に閉じこめた、杉本博司による「ガラスの衝立」。三保谷硝子の作業場で、杉本さんがひとつひとつのブロックの形状や向きを指示しながら、積み上げていった。


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吉岡徳仁が使ったのは、プラズマTVに使われる特殊な電球をリサイクルしたガラス素材「パステル」。乳白色で半透明、まるで大理石のようなテクスチャーを持つ。


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三保谷硝子店作業場。

社長の三保谷友彦さんは揉み手でクライアントの我が儘を聞く「下請け」ではない。自店から素材を提供したクリエイターに対してであっても、手抜きや怠惰、勉強不足、 傲慢を厳しく叱咤し、ガラスという素材で何ができるか、彼を唸らせる発想を突きつけて来いと挑発し、激励する、厳しく誠実な職人なのだ。

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立て掛けてある板ガラスの間に挟んであるのは・・・

詳細はぜひ記事でお読みいただきたいが(『Casa BRUTUS』2010年1月号/12月10日発売予定)、特別に入らせていただいた店の4階にある「奥の院」、最先端の試作品を並べた部屋はすごかった。「こ、これどう なってるんですか!?」「ヒミツ(笑)」「ちょっとそのあたりを撮影させていただいてもいいですか!?」「ダメ(笑)」というやりとりがあったので、具体 的なことは一切書けないが、およそガラスに可能とは思えない加工や成型が施された「試作品」がごろごろしているのである。

ガラスにはまだまだ恐るべき可能性がある。扉は簡単には開かないだろう。だが本気で取り組みたいクリエイターは、どんな伝手をたどっても紹介者を探し、「一見お断り」の三保谷硝子店の門を叩いてみるといい。

追記:

仕事の話にはものすごくシビアな三保谷さんだが、鏑木清方とかスキなんだよねー、という柔らかな一面もお持ち。百貨店・松屋出入りの職方であるため、幼い頃からデパート美術展で日本画などを見る機会は多かったそうだ。

「清方の描く女性はホントに色っぽいんだよ。『築地明石町』なんか、いくらくらいするの?」って、いえ、切手の図柄にもなっているアレは門外不出かと。間もなくサントリー美術館で始まる「清方/Kiyokata ノスタルジア — 名品でたどる 鏑木清方の美の世界 —」展(11月18日〜2010年1月10日)の招待券を束でお送りしたが、広報のM浦嬢、ただちにオープニングへの招待状を差し上げて下さい!

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「そうだ 京都、行こう。」な日々。

11月1〜7日まで、珍しく長期の京都ロケ。これだけ京都に居続け、というのは、2004年に無印良品の広告キャンペーン「無印良品と茶室」の、撮影コーディネートをやったとき以来かもしれない。

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慈照寺・東求堂「同仁斎」、大徳寺玉林院「霞床席」、同「蓑庵」、大徳寺孤篷庵「直入軒」、同「山雲床」、武者小路千家「官休庵」という、名席撮りまくりのヘヴィな1週間だった(AD:原研哉、撮影:上田義彦)。

今回は明け方から日暮れまで撮影し、夜はホテルで別媒体の特集入稿。ということは、ブログを更新する余裕はほとんどない。なので、「そうだ 京都、行こう。」の1週間をざっくりプレイバック。刊行時期、媒体名などは、また後日お知らせします。

平等院鳳凰堂。

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屋根の上の鳳凰は現在はレプリカに替えられている。そこに最近よく集まって来るのが鷺。サイズも鳳凰に近いし、彼ら的になにか思うところがあるのかもしれない。

三千院。

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東京で木枯らし1号が吹いた日、京都もこの秋最高の冷え込みだった。どうせ今年も暖冬気味だろうと高をくくり(だってまだ11月初旬だし)、冬の寺社撮影の時は必ず持参する「防寒7つ道具」を持って行かなかったことを、骨の髄まで沁みる冷気とともに後悔することに。

個人的には京都の寺社参りなら、人気の少ない冬がベストシーズンだと思うが、特に足下の防寒対策はしっかりと。靴を脱ぎ、お堂へ上がって拝観するタイプのお寺には、登山やスキー用のインナーブーツを持って行くといい(ホテルの使い捨てスリッパでも可)。とにかく1枚履きの靴下やタイツ、いわんやストッキングでは足が冷えきって、拝観するどころではない。靴下に貼る用カイロも便利です。

浄瑠璃寺。

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ちょっとブレてて、すいません。もう暗かったので。池の向こうに阿弥陀堂。戸をすべて開け放てば、九体阿弥陀の輝きが堂外へ溢れる。

Joururiji

敷地内に居候する野良猫。池の鯉が気になるらしい。カメラの前でも名演を披露してくれた。

建物も仏像も平安時代、と言われても、にわかには信じられないほどの状態の良さ。副住職さまのお話では、三方を山に囲まれ、目の前に池、という環境が温度湿度の変化を抑えたため、よい状態をキープすることができたという説もある、とのこと。はっきりした理由はわからないが、平安後期に盛行した九体阿弥陀を現在も見ることのできる、希有な寺だ。


清水寺。

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京都の、というより、日本でもっともメジャーな観光地。修学旅行以来、という人も、オトナになってからあらためて行くと感動できるはず。おしくらまんじゅう状態の参道の人ごみは、通過儀礼と思って、無念無想でくぐり抜けるしかない。にしても、膨大な観光客の重量を支え続ける「清水の舞台」が崩落する可能性はないのか。奥の院から見ると、何となく舞台が前のめりに見えるのだが……。


伏見稲荷。

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伊藤若冲の寄進した石仏(五百羅漢像)で有名な石峯寺のすぐ近く。真っ赤な千本鳥居には、寄進者の名前や住所がはっきり刻んである。有名なこの鳥居カットも、反対方向から見ると朱の肌に黒々と刻まれた文字がびっしりで、情趣もへったくれもない。そうしようとしてやった、というより、気がついたらそうなっちゃってた的な鳥居の群れは、下手な現代美術よりずっとクール。

もちろん行ったのは上記だけではない。上賀茂神社ではお目にかかった神職の方がなんと数年前にNYの武者小路千家のお稽古の会の世話人をされていたIさんで、マンハッタンでピザを食べた人と、「国宝の権殿拝殿撮りたいんですけど・・・」という話をする羽目になったり、鞍馬寺で日本一の美尼さまと遭遇したり(某有名尼「ジャッキー」とは全然違う)、さらにその合間に杉本博司さんと会ったり、細川護煕さんの個展を見に行ったり、まあいろいろあった。で、来週は「京都ロケ/セカンドシーズン」。

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BRUTUS 674号:真似のできない仕事術

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ちっとも「日本美術コンフィデンシャル」にならない今日この頃。

11月1日に発売された『BRUTUS』真似のできない仕事術、ちょこっと仕事をしているのでご紹介を。

我が身を振り返れば、ここ数年はON/OFFの区別なく、365日24時間営業で仕事に邁進する日々。大晦日も元旦も原稿を書き、出張以外の旅行はゼロ、白髪は増えるし歯はガタガタになるし救急車で運ばれた翌日も朝から取材に出かけなきゃならないし・・・という話じゃなくて。

それだけ打ち込んでも過労死しないで済む楽しい仕事に恵まれて、ホントにありがたいことですが、今回ご紹介する皆さんも、忙しく、機嫌よく、そして結果を出す仕事をしている方々ばかり。なんでそんなにナイスな仕事ができちゃうの? 仕事場はどうなってるの? 仕事の仕方、いや仕事ってなんなんですか? という、大人から子供まで、仕事する人なら誰でも気になる「仕事術」が満載です。

当たり前ですが、みんなやり方は違う。

誰にでも当てはまる、「こうすれば年収2000万円」みたいな仕事術はありません。そういう洗脳系ビジネス書が嫌いで、書店のビジネス書コーナーをスルーし続けてきた方は、ぜひ本特集を手に取ってご覧ください。

ちなみに私が担当したのは茂木健一郎さん。まだSONYのクオリアシリーズが現役だった頃の、『BRUTUS』でのタイアップ連載からの付き合いです。

校正がほとんど戻って来ないとか、打ち上げの席で捕まえないと打ち合わせができないとか、なぜかオールひらがなの緊急返信メールが来るとか(変換してる暇さえなかったんですね。合掌)、茂木さんの仕事ぶりは骨身にしみて存じ上げてますので、ここ数年の観察結果も反映しつつ、記事を書かせていただきました。茂木さん、ご協力ありがとうございました。次の仕事の時も、よろしくお願いします(笑)。


ちなみに自分自身の仕事三箇条(特集では全員にお聞きしています)の1は、「すべての仕事はつながっている」。あとの2つは今のところ思いつきませんが、「なんでこんな仕事引き受けちゃったんだろ」と思うような仕事が、あとでとんでもなく大きな、別の仕事を連れて来てくれる。海老で鯛、いや、クジラを釣るって感じでしょうか。

その理路は後にならなきゃわからないので、取りあえず現時点の自分にとって意味不明の仕事でも、可能な限り引き受けることにしています。3年後くらいに「あの時やっておいてよかった!!!!!」という局面が、必ず、ほぼ100%訪れるので。どんな仕事も無駄にはならない。効率いいなあ(まあ、視点を未来に置くか過去に置くかで、解釈は180度変わるわけですけど)。


特集に登場するのは、以下の皆さん。

松浦弥太郎さん『暮しの手帖』編集長
森本千絵さん コミュニケーションディレクター
茂木健一郎さん 脳科学者
遠山正道さん 株式会社スマイルズ代表取締役社長
幅 允孝さん ブックディレクター
束芋さん 現代美術家
中村ヒロキさん〈visvim〉ディレクター
多田 琢さん CMプランナー
企業としては、
安藤忠雄建築研究所
東京糸井重里事務所
SAMURAI(佐藤可士和)
スタジオジブリ

BRUTUS674号「真似のできない仕事術」600円

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Luxury:ファッションの欲望 後編

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さて、後編である。

「5月革命」を機に、ヨーロッパ中へ拡大していった若者たちやマイノリティによる既成の権威や因習への激越な否定の衝動は、20世紀を画する政治的、社会的地殻変動を引き起こした。そのさなかに、クリストバル・バレンシアガがオートクチュールから身を退いたことは、象徴的な「事件」であったと言わねばならない(同時代にYSLが台頭していくのも対照的)。

「自分でデザインし、パターンをおこし、縫製し、すべてをこなすことのできるただ一人のクチュリエ」。ガブリエル・シャネルが畏敬を込めて評したバレンシアガの服は、裏地を張ることも、補強のステッチを施すことも、むろんコルセットやクリノリンに頼ることもない。裁断と縫製の技術のみによって身体から離れ、自律的なフォルムを描き出すドレスは、布による建築とも言える。デッサンを行なわず、マヌカンに直接生地を纏わせて立体的に裁断された布それ自体が、「構造」となるのだ。

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布1枚が実現している立体性がおわかりになるだろうか。前後左右から舐めるように。京都服飾文化財団はバレンシアガのマリエも所蔵している。その驚くようなシンプルさ、美しさと来たら! 

構造と素材が作り出すそのラインの鋭さに絶対的な自信を持っていたからこそ、バレンシアガは安易な装飾で服を飾ることはなかったし、シンプルが貧相に堕すこともなかった。そして、たとえばチュニックで実現された簡潔で厳格なプロポーションは、1960年代に至ってようやく「ミニスカート」として開花する。「ミニ」の発明者として通常名を挙げられるのはクレージュだが、その前提となる形は、既にバレンシアガにおいて完成されていたのである。

もう1人、マドレーヌ・ヴィオネの名も忘れるわけにはいかない。

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ヴィオネの専売特許、バイアスカットのドレスが並ぶ。一番奥の黒いドレスはご覧の通り(これだけ抜きん出て「立体」なので、それとわかる)、バレンシアガ。

ヴィオネはキャロ姉妹のオートクチュール・メゾンで、プルミエール(デザイン・コンセプトに添ってパターンの形を考え、製図を引く)として働き、当時の顧客の縁で浮世絵や着物に触れる機会を持ったようだ。

ジャポニスム、ことに着物がパリモードにもたらしたパラダイムシフトの影響は甚大だった。身体そのものの形と相似形ではない服というものが存在する。長方形の布を、裁断することなしに身体に添わせていけば、それで服として成立する。色や柄、素材、形状の上での異国趣味ではない、その意味の大きさに気づいた少数のクチュリエたちは、服の構造に対する根本的な認識の変化を迫られた。そしてその効果は、ヴィオネの仕事において、最も洗練された形で表現されたのである。

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装飾さえ構造に参加し、布がメビウスの輪のように身体と絡み合って成立するヴィオネのドレスには、どう着こなすのか、今となってはわかないものさえ存在する。何十年を経ても型くずれひとつ起こさない、その美しい形がいかなる技術と思考から生み出されたのか。

布地を斜め(バイアス)に使う技術そのものは、ヴィオネ以前にも当然あった。ただしそれは主として襞や縁取りなどの装飾に用いられたものだ。ヴィオネは縦糸と横糸の対角線方向に引っ張られたときに、もっともよく伸びる布の性質を応用して、平面を立体構造へと変化させ、身体にフィットするドレスに仕立て上げた。しかしこの「伸び」を自在にコントロールして服を作るためには、布の性質を熟知し、操るだけのテクニックを持っていなければならない。ヴィオネはあらかじめ布を伸ばしたり、裁断や縫製の技術を駆使するほか、伸びにくい素材そのものの開発も行っている。それはストレッチ素材を使う現代とはまったく異なる「動き」へのアプローチなのだ。

一方、バレンシアガ、ヴィオネとは少し違う立ち位置で仕事をしていたのは、マダム・グレである。

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縫い目を最小限に抑えるため、特別に織らせた幅広の薄い絹ジャージーに、無数の細かいドレープを寄せたドレスは、「アテナ・パルテノス」や「サモトラケのニケ」を彷彿とさせる。その年、そのシーズンの流行ではなく、ヨーロッパ世界の底流に存在している「永遠」へつながる回路だ。享楽的、表層的な装飾性を捨て、ギリシア、ローマ文明の「高貴なる単純と静穏なる偉大」へ回帰しようとする、服飾における新古典主義。それがマダム・グレのオートクチュールなのである。

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後ろから見ても溜息の出るドレープ。コレクションの準備中、三丁は使い潰すという鋏は、彫刻家にとっての「鑿」も同様だったのだ。

その発想は常に、「布の性格を見きわめ、その心にさからわないで、いかに女の体の上で美しく生かせるか、布と体がどうすれば、なじんでゆくか」と考えるところから始まる。人台の上に布を巻き付け、人間の体の線と厚みを生かして、「布自身が欲している流れとフォルム」を与えていく。動きやすいよう、裾ぐけの糸目をわざと緩くしたり、ピンタックを不規則に寄せることで体の線を補正し、思いがけないところにバイアス裁ちを作った「サン・クチュール(ほとんど仕立てのない)」のドレスは、芯地もパッドもなしに、女らしい優美な曲線を保った。

そして現代へ、ということで、吹き抜けの大空間には、コム・デ・ギャルソンの歴代コレクションが、妹島和世氏の構成によって展示された。これは川久保玲氏自らが、KCIに寄贈したもの。

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衝撃的な「こぶドレス」も。

川久保玲はじめ、現代のデザイナーと身体性の問題は、また回を改めて書きたい。


東京都現代美術館
Luxury:ファッションの欲望
2009年10月31日(土)~2010年1月17日(日)

東京都江東区三好4-1-1
午前10時~午後6時(入館は、閉館の30分前まで)
月曜休、ただし11月23日、1月11日(祝・月)は開館。翌日火曜日閉館。年末年始休。


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