鎌倉彫のこと。
しばらくブログを放置していたので、なにか「大作」を書かねば再開できないような気がしていたのだが(笑)、なこと言ってたら開店休業のまま春が来てしまいそうなので、最近取材が続く漆の話、アゲイン。
『Casa BRUTUS』で連載している、「ニッポンの老舗デザイン」も回を重ねること16回。4月号(3月10日発売)で17回目を迎える。ベタベタの「伝統」ではなく、日本の、あるいはそれが作られた地域のローカリティと、普遍性とが両立している製品ばかりを選んできたつもりだ。道明の帯締、十三やの櫛、唐長の唐紙。清課堂の錫器の回は出色で、日本的…とも見えるし、北欧デザインと言われれば「そうかも」と思える、いいページを作ることができた。またちょっと変わったところでは三保谷硝子も紹介している。素材の開発も立派な「デザイン」行為だから。
とはいえ、伝統工芸のオールジャンルにおいて(連載で取り上げた店でさえも)、ファンシーの贅肉をかき分け、その骨格を形づくっている製品を探し出すのは、至難のわざ。だから『Casa BRUTUS』の編集長で鎌倉在住のKさんに、「鎌倉彫はどう?」と示唆された時は青ざめた。私も生まれが鎌倉なだけに、鶴岡八幡宮の参道沿いに並ぶ「鎌倉彫ショップ」の品揃えの悲惨さは熟知しているからだ。
ところが、あったのである。すごい店が。
鎌倉彫はもともと、扇ガ谷の寿福寺周辺にあった鎌倉仏所、つまり鎌倉の寺院を中心に造仏、仏具の制作や修理を手がけていた、仏師たちの余技として始まった。本業は仏像彫刻だから、技術レベルは非常に高い。それによく考えれば、彫刻と漆芸という二大工芸ジャンルの美味しいとこ取りなわけだし、本来モノとしての魅力が薄いはずはないのだ。
本当に美しい。ガンメタリックの光沢はまるで金属器のようだが、手に取ると木と漆の軽く暖かい感触にほっとする。文様自体は泉涌寺に伝わる中世の唐草文で、伝統的に鎌倉彫に施されてきたもの。それを「拡大」し、塗りを変えただけで、これほど際立ったものが生まれるのだ。最初に見た時はまるでケルトの渦巻文のようだと思ったが、仏具といわれればそうも見える。
掌にちょうど収まる美しい小箱を手に入れたいという誘惑とはまさに「激闘」したが、最終的に中に入れるものがないでしょ、という方便で自分を納得させた。ハリー・ウィンストンのダイヤのリングくらいの貫禄がないと、この箱にはもったいな気がするからだ(笑)。
つくっているのは「博古堂」。明治時代の廃仏毀釈後、扇谷の寿福寺前に十数軒あった仏師のうち、廃業せずに踏みとどまったわずか2家のうちのひとつで、濃く暗い赤色に牡丹文をあしらった「いわゆる鎌倉彫」的な定番商品の伸び悩みを打開するため、4代目として店を率いる後藤圭子さんが職人とともに試行錯誤しながら採り入れてきた新しい技法、新しいデザインが、確実に新しい顧客を掴みつつある。
また誌面にはもうひとつ、この箱とどっちにしようか(どっちも高いちゅーの)迷いに迷った、同じサイズの箱も掲載している。それに工房の様子なども。実はこの店の工房は夏になると窓を開けて作業しており、小学校入学以前の私も背伸びをして、その窓の中を覗き込んだことがある。通常は取材を断っているという内部の様子を撮影させていただけたのも、嬉しいハプニングだった。
箱の代わりに買い求めたのはこれ。朱色の鉢だが、蓮華座のようなフォルムが気に入っている。この連載は基本的に、自分で買いたいものがあるところしか紹介していないが、自説の正しさを証明するため(?)、ほとんど常に「お買上げ」が伴うのが痛いところ。場合によっては「こう使うのがカッコいいでしょ」てなことが言いたいあまり、オーダーで作っていただいたものを誌面に出す、というケースもある。もちろんまるっと身銭を切ってやっていることだ。ほぼ毎回、原稿料をお買い物代が上回ってしまうため、組んで連載を担当している写真家の久家靖秀さんからは「逆ざや連載」と呆れられている。
博古堂●神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-28●0467-22-2429、9時半~18時(11月~2月は17時半まで)、年中無休。茶托や菓子皿など求め
やすい価格帯のものも多い。ジェーン・バーキンが求めたという掌に収まる小鏡は秀逸。柄のバリエーションも豊富で、海外への土産にもいい。
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コメント
はじめまして、いつもblog楽しませてもらってます。
お忙しいと思いますが、できれば大作でなくても、ちょっとの内容でも写真だけでも更新してくれると凄く嬉しいです。
これはほんと僕の勝手な希望なのでまったく全然気にしないでください。
お仕事頑張って下さい。
投稿: 聡 | 2010年2月 6日 (土) 19時03分
コメントありがとうございます。励みになります。特に「大作でなくても」という部分が(笑)。無理のない範囲で記事をアップしていきたいと思いますので、引き続きよろしくご贔屓に。
投稿: 東雲堂主人 | 2010年2月 6日 (土) 23時51分