工芸未来派
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NYクリスティーズで日本・韓国美術部門のヘッドを務める山口桂さんがすでに詳細なレポートをアップしているので、「私は書かなくてもいいや。らくちんらくちん」などと思っていたが、当日の様子を別の視点から書き残しておくのも一興と(写真もないしね)、簡単なメモを書いておくことにした。
まず、今回の茶事の亭主は、武者小路千家15代家元後嗣の千宗屋(せん・そうおく)さん。彼が主催者となる茶事は、ある特定の一日だけ催されるのではなく、「シリーズ」として断続的に2週間ほど続く。その中のある一日、集った客と亭主とが共有した「一座」のお話である。
さてゲストについては、桂さんのブログから引用させていただこう。
〝集まった昨晩の連客は、正客となる実業家T氏の他、有名写真家U氏、古美術商T 氏、懐石料理店経営・数寄者Nさん、現在Y美術館でソロ・ショウが開催されている現代美術作家Tさん、「外人枠」の筆者、そして或る意味最も重要な「お詰め」は、ライターで千氏のお弟子さんでも有るH女史が担当〟
それぞれの人に、それぞれのご縁があってこの茶事に連なっているわけだが、現代美術作家Tさんこと束芋さんについては、去る2月15日にあったフクヘンこと『BRUTUS』副編集長鈴木芳雄さんとのトークショウ「才能の発見」の席上、村上隆さんのスタジオで催された茶会(亭主が千さん、鈴木さんが連客)に言及されたこともあり、だったらとお誘いした次第なのである。
ツイッターでも少し書いたが、お茶というとひたすらかしこまって正座し、茶碗を3回まわしてワン、いや碗……というようなイメージをお持ちの方が多いと思う。もちろん正座も茶碗をまわすシーンも存在するが、それだけでやっているわけでもない(正座にも茶碗回しにもある合理的、美的理由が存在する)。
「ピアノのお稽古」の果てに、(人によっては)プロのピアニストとして演奏会を催す、という目指すべき頂がそびえているように、本来「お茶のお稽古」が最終到達目標と設定しているのは、「茶事で亭主を務める」ことである。「お点前」を学ぶ理由は、そこに尽きる。かつて存在していた行儀見習いとか花嫁修業、というお題目はその学びの過程で身につく副産物の、誇大広告みたいなものなのである。実際、ヨメが茶人だったら道具は買うわ茶事は催すわの、道楽者も同然。家計の危機は必定である。「ご趣味は」「お茶を少々」などという茶の湯女子には十分注意された方がいい。
ともあれ、「茶人の正課」であり、茶の湯のエッセンスが詰まった「茶事」は、緩急に富んだ4時間に及ぶプログラムで、「緩」の方ではガンガンお酒の出る「宴」も用意されている(もちろん必要以上に乱れてはいけない)。その「緩」があってこそ、後に来る「急」、濃茶の席が厳しく引き締まり、集中できる──という塩梅なのである。
プログラムは炭点前→懐石→濃茶→薄茶と進む。濃茶席の〝ガチムチ〟な道具を含む当日のしつらいについては、桂さんのブログでお読み下さい(手抜き)。
桂さんも書いているように、濃茶の席に登場したのは真塗りの水指に黒樂茶碗、そして同じく真塗りの小棗。玄妙な黒のグラデーションはしかし、いつしか茶室の闇の中に存在感を溶かしこんで、消えていく。
道具はお客をもてなす「ごちそう」のひとつではあるけれども、最終的にはそこに集った人、そしてその間で生じているコミュニケーションこそ茶の湯の本質である──という、利休の本意(だと千さんは考えているし、私もまったく同意)を、強く、はっきりと打ち出した道具組みだった。
しかも紹鷗−千利休−山上宗二という制作者(発注者&プロデューサー)はそれぞれ、師弟関係にある。室町最末期から桃山にかけて、茶の湯を一気に革新した〝ガチムチ〟革命家たちの系譜を浮き上がらせ、そこに連なる自身、という千さんのある種の覚悟をも、明らかにしている。
ちなみに我々は7人で2合程度、舐めるように美酒を味わった草食系ゲストだったが、前日のお客さま方は5人で2升を空けた酒仙の集まり。しかも芳名帳に残された揮毫に一分の乱れもなし。「ぬぬ、デキるな」と、イエローカード連発のお詰として、密かに感心した次第。
また後日談になるが、茶事の翌日の夜、束芋さんからノート8ページにもわたる「茶事図解」の下書きがpdfで届いた。当日のしつらいから懐石の内容、道具の詳細までびっしりと描き込まれている。手控えで終わるのか、なんらかの作品に生かされる日が来るのか、それはまだ誰にもわからないが、1日がかりで記憶を頼りに描ききった束芋さんの集中力にも感服。見事な「客ぶり」でした。
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先日来お伝えしている「G-tokyo 2010」は従来のバザー形式ではなく、国内トップの15ギャラリーが最大5m×6mのゆったりとしたブースで、個展または企画展形式のギャラリーショウを展開する。本日、全ギャラリーの展示内容が、以下の通り公開された。
アラタニウラノ│「archi+anarchy」展
岩崎貴宏、泉啓司、西野達、大木裕之、高嶺格、横山裕一
ギャラリー小柳│「Experiments」展
杉本博司、オラファー・エリアソン、トーマス・ルフ
ギャラリーSIDE 2│「SEE MAX」展
ムラタ有子、ピーター・マクドナルド、花澤武夫、齋藤雄介、マーク・ボズウィック、スーザン・チャンチオロ
ヒロミヨシイ│「3秒3分3日3人」展
泉太郎、井上信也、小金沢健人
ケンジタキギャラリー│「横内賢太郎新作展」│
横内賢太郎
児玉画廊│「ignore your perspective」展│
池谷保、田中秀和、関口正浩、和田絢、鷹取雅一、阿波野由起夫、坂川守
小山登美夫ギャラリー│「サイトウマコト個展 映像の記録と記憶」展
サイトウマコト
ミヅマアートギャラリー│「山口晃個展 柱華道」
山口晃
オオタファインアーツ│「かちどき 1」展
猪瀬直哉、樫木知子、草間彌生、さわひらき、見附正康、梅田哲也、小沢剛、竹川宣彰、イ・スギョン
SCAI THE BATHHOUSE│「テクスチャーと光」展(名和晃平キュレーション)
アニッシュ・カプーア、宮島達男、嵯峨篤、名和晃平、藤井秀全、神馬啓佑
シュウゴアーツ│「アーバン・スピリット」展(金氏徹平のキュレーション)
板垣賢司、金氏徹平、森千裕、横山裕一
タカ・イシイギャラリー│「Rain」展
トーマス・デマンド、畠山直哉、ピーター・キートマン
TARO NASU│「A Whole Hole」展
ライアン・ガンダー
ワコウ・ワークス・オブ・アート│「New Overpainted Photographs」展
ゲルハルト・リヒター
山本現代│「The Universe」展
西尾康之
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現在横浜美術館で「束芋 断面の世代」展を開催中の現代美術作家、束芋さんから、1月16、17日に展覧会場で行われる演劇公演についてお知らせをいただきました。以下、メールを一部訂正の上、引用させていただきます。
作家自身によるパフォーマンスには興味を示さず、むしろその表現領域を専門とするプロフェッショナルとのコラボレーションによって、自身の作品世界が広がり、深化することを志向する束芋だからこそ、の演劇公演です。
どうぞふるってご参加下さい。
劇団ワンダリングパーティーの 『トータル・エクリプス』の再演がいよいよ迫ってきました。
日程は16日に2公演、17日に1公演と、3公演あるのですが、こちらの宣伝が行き届かず、まだ各100席以上の空席がございます。
本当に本当に素晴らしい舞台なので、是非多くの方々に観ていただきたく、最後のお願いメールを送らせていただきました。どうかご興味のありそうなお友達などにも、このメールを転送いただければ幸いです。
また、当日は、この舞台を観に来ていただいた方だけに見ていただく、束芋の最新作を発表させていただきます。この作品は「断面の世代」展と『トータルエクリプス』をつなぐ役割を果たすもので、『トータルエクリプス』なしでは存在し得ない作品です。
現在、未だ制作中で、皆様には出来立てホヤホヤをみていただくことになります。
こちらも期間、場所ともに限定とはいえ、他の作品と変わらず、力を入れて作っておりますので、是非とも宜しくお願い致します。
3公演ともアフタートークを予定しております。当日は今までのイベント時とは違い、私自身も鑑賞者としてのんびり、うろうろしておりますので、声をかけていただければ嬉しいです。
もし周りにチケットをご購入していただける方がいらっしゃいましたら、ホームページ をご参照ください。
舞台の詳細はこちらから。
どうか、どうかご協力をお願い致します!!!
束芋
(チラシ画像はクリックで拡大)
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白金の杉本博司&小柳敦子邸で忘年会。
こちらに客を招いて杉本氏が料理の腕をふるう「割烹杉本」は有名だけれど、おそらくこの3年ほどの「最多お相伴賞」は、間違いなくワタクシであろう(笑)。もともと超がつく非社交人格で、パーティなどにほとんど顔を出さない当方にとって、杉本小柳両氏はリラックスしてつきあえる極少数の貴重な知己なのだ。その年内最終営業(?)にお招きいただいたので、いそいそ伺った。
杉本さんにとっても気楽な相手なので、ことさら奇を衒わない定番メニュー。アペリティフにタラモペーストのカナッペ、生ハム、蚕豆。メインは河豚のから揚げに、タラバガニを奢った土鍋で作る海鮮リゾット。食後は持参した和菓子。美味しゅうございました。ごちそうさま。
「割烹杉本」は新しく入手した古美術のお披露目を兼ねていることが多いのだが、今回は表具を一新した「春日曼荼羅」をご披露いただく。奈良では今年も恙なくおん祭が斎行されたようで、来るべき新年を前に、御正体を掲げた神鹿がまことにつきづきしい。
さらに高松宮殿下記念世界文化賞受賞時の記念写真や、賞状なども本邦初公開。賞状を納めた革製のケースはエルメス・プレゼンツ。最高の職人の手になるものと聞くが、持ち帰る時にエルメスの紙袋に入れられてくるのが可笑しい。商品じゃないんだから。
「人類不滅の財産である芸術の創造者」!
今年度の受賞者たちの集合写真。
常陸宮殿下と歓談(笑)する杉本氏。
常陸宮殿下からの授与の瞬間。右端に参列している歴代受賞者の中に「赤い人」がいる。もしやこの方は…。
名札も持って帰って来ちゃいました。ああ、ザハのまで…。ま、記念ですから。皇室ファンですから。高校球児が持ち帰る、甲子園の砂みたいなもの。
そしてここではまだ詳細を書くことも、画像を公開することもできないのだが、杉本氏の新たな●●●●●が、●●●●●●! 皆さま、ぜひご期待下さい。情報解禁になったら、真っ先に画像付きでお知らせします。
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11月27日付のブログで「新たなアートフェア」としてご紹介した《G-tokyo2010》、開催1カ月前を迎えて、新しい情報が発表されたので、速報を。
■TOPIC 1
G-tokyoトークセッション
現代的/日本的表現とは何か?
『G-tokyo 2010』の開催に伴い、バイリンガル・アートポータル『ART iT』のプロデュースの下、「現代的/日本的表現とは?」をテーマに、次世代を担う作家によるシンポジウムを行います。現代社会において、作家は常にグローバルなマーケットで勝負することが求められますが、日本人の作家(現代美術作家/建築家)はグローバルなアイコン作品競争からは一定の距離を保ちつつ、独特の表現領域を構築しているように思えます。ここでは、そうした現代的/日本的な表現に卓越していると思われる建築家/アーティストを集め、その表現の独自性と可能性を探ります。
日時:2010年1月31日(日)
出演者: 藤村龍至× 中村竜治× 長谷川豪、金氏徹平× 永山祐子、名和晃平×石上純也。青木淳×杉本博司、藤本幸三× 西沢立衛
モデレーター:五十嵐太郎(建築史家、建築評論家)
司会進行役:藤村龍至(建築家)
※事前予約制 1月15日正午より公式サイトにて受付開始。
■TOPIC 2
『G-tokyo 2010』ラウンジスペースのキーワードは建築とデザイン。
時代をリードするクリエーターのプレゼンテーションがアートフェアの会場を繋ぎます。
I. ラウンジD
世界が最も注目するデザインデュオ、ロナン&エルワン・ブルレックのデザインによる家具でスペース全体を構成。既成の概念に捕らわれず、作品と使い手の新しい関係性をも提案する印象的なフォルムが特徴です。その注目のデザインをどうぞご堪能ください。
II. ラウンジA
新進気鋭の建築家、藤本壮介氏が担当。国内外問わず、若手建築家として注目されている藤本壮介氏が『G-tokyo 2010』のためにラウンジをデザイン。その建築的表現をアートフェアでご体験ください。
■TOPIC 3
会場の家具構成はすべて hhstyle.com によるディレクション
各ギャラリーブースを彩るのは世界の主要家具ブランドを取扱う hhstyle.com によりセレクトされたデザイン家具の数々です。
ギャラリーの展示にあわせてひとつひとつ選定されたテーブルや椅子がゲストの皆様をお迎えします。
【 開催概要 】
G-tokyo 2010
主催 :『G-tokyo 2010』実行委員会
会場 :森アーツセンターギャラリー 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 52F
日時 :2010年1月29日(金) VIP/プレスプレビュー
ご招待者のみ(ファーストチョイス) 14:00-20:00
プレスプレビュー 15:00-20:00
2010年1月30日(土)、31日(日) 一般公開
11:00-20:00
入場料 :一般1000円(当日券のみ販売いたします)
特別協賛:エルメス
協賛:inter.office|hhstyle.com、ジェロボーム株式会社
協力:原美術館、森美術館、サントリー美術館、グランド ハイアット東京、大宝運輸株式会社
メディアスポンサー:ART iT
公式ウエブサイト: http://www.gtokyo-art.com
お問合せ:info@gtokyo-art.com
tel:03-5777-8600 (会場ハローダイヤル)
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神奈川県立近代美術館で開催されている「内藤礼 すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している」展を見てきた。ジョルジュ・バタイユが『宗教の理論』に記した一節をタイトルとし、坂倉準三によるモダニズム建築の内外に新作インスタレーションを制作している。
第1展示室には10年(以上)ぶりに電球光を使った作品が、《地上はどんなところだったか》として復活。観客が一度に一人ずつその中へ歩いて入っていくことのできる展示ケースが2か所設けられ、作品と対話することができる。その場に身を置き、感覚を解放していくうちに、作品の細部を「発見」していくという構造は、ベネッセアートサイト直島の家プロジェクト「きんざ」によく似ている。
風を受けて中庭にひるがえるリボン、繰り返し登場するフラワープリントの布、水を満たしたガラス瓶──。新たな段階へ移行しつつある内藤の、新旧の作品と建築が呼応、交錯しながら、「地上における生」の全体性を回復することへの強く透明な希求を結晶させている。
〜1月24日まで
12月28日~ 1 月4 日、 1 月12 日
午前9時30分~午後5時(入館は4時30分まで)
一般 700円
神奈川県立近代美術館 鎌倉
神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-53
電話:0467-22-5000(代表)
内藤礼氏によるアーティストトーク
2010 年 1 月11 日(月曜/祝日)午後2時より
神奈川県立近代美術館 鎌倉、予約不要、無料
小柳敦子氏(談)
西沢立衛さんとご一緒したのですが、あれを見て西沢さんはすごく自由を感じた、と。内藤さんはどちらかというと、緊張させたり、意識の深遠に導かれたり、観客にとって「自由」とは対極の位置にいる作家なのですが、風が自由に入る坂倉準三さんの建物がそうであるように、内藤さんも自由だと思った、とおっしゃっていました。
難しい言い方をするまでもなく、まず美術館とは何かということを考えさせられる展示です。そもそも「展示室1」「展示室2」という区別にどんな意味があるのか。坂倉(準三)さんは、1階は絵画、2回は彫刻、屋外は屋外彫刻と分けていきましたが、内藤さんはその「仕分け」を見事に裏切って、展示によって美術館の中も外も等価にしてしまっている。そこがすごく面白いし、坂倉さんが生きていらしたら、やはり面白がって下さったと思うのです。
そして風の道や光の道といった坂倉さんの設計意図を把握した上で、その意図を取り込んだ形で作品を設置している。天から降りてくるような中庭のリボンが踊るだけで、そこが風の通り道だとわかるんです。また池に面したテラスに垂らされた長いビーズに日が射すとビーズがきらきらと輝き、天井には水面に反射した光が映って、平面の世界と立体の世界が、調和している。それはもう、見事です。ぜひ天気のいい日に訪れてください。
『美術手帖』2008年11月号「ARTIST INTERVIEW」より抜粋(インタビュー&構成:橋本麻里)
──これまでの内藤さんの作品には、ひとつの強力な方向性がありました。
内藤 自分でコントロールしきれないものを求めているのだと思います。横浜トリエンナーレに出展した〈無題(母型)〉なら、熱や水の対流によって発生する 動きがそうですし、2001年に完成した直島の家プロジェクト〈きんざ〉も、外界から完全に遮断された屋内で体験する作品ではなく、低い位置に開口部が あって、外の風景が感じられるようになっています。そこを誰が歩くとか、誰が立ち止まるとか、外にどんな作品があるかということは、私にはコントロールできませんよね。自分の理解の内側だけで制作しない、理解を超えたり、理解しきれないものをそのまま受け入れて「完成」する作品、そういう方向に向かっているような気がします。
──「私はいるのか」という疑問に捕らわれていた頃、内藤さんにとって他者はどのような存在だったのでしょう。
内藤 恐怖でした。1991年の佐賀町エキジビットスペースで発表した〈地上にひとつの場所を〉は、会場の内部にフランネルのテントを張っています。鑑賞者はやはりたった1人で、完全にコントロールされた空間の中に入って作品を鑑賞する。それが2002年、ライスギャラリーでの展示では、自然光を受け入れ、音や外の気配は感じられるけれども、作品の内部にいる鑑賞者からは外が見えない、完全にベールを剥ぎ取らないでほしい、というくらいの距離感になり、 東京都現代美術館の〈無題(母型)〉では、ついに外の動きが見えるようになった(笑)。何人で通り過ぎてもらってもいいし、何が見えてもいい。死者が振り 返って見たときの地上の風景、しかもそこに生きて在る人間を含む環境、生の全体を眺めたいということなんです。そうやって、たまたま自分が生まれた場所で 受け取ったもの、縛られているもののすべてに納得できたとき、地上における生が「祝福」となるのではないか。生命としての実感が薄いから、そんな風に「祝福」について考えるようになった気がします。
──内藤さん自身、生命であることについての実感が薄いのですか?
内藤 それこそが探しているものだと思います。作品を通してわずかに感じられる瞬間があるからやっていられるというか……。言語を使って考えることと、本 当に深く自分の全身で「わかった」と感じることとは、違いますよね。「外がある」「他人がいる」と初めて気づいた時と同じように、「自分が生命である」ことを感じたい。最近、動くものに興味を持っているのも、そこに「アニマ」、生命の本質があるからだと思っています。
──素材という言葉がふさわしいかどうかわかりませんが、言葉という素材の使い方も変わってきています。なぜかこれまで内藤作品について論じる書き手のほ とんどは男性で、しかもその多くが作家の「女性性」について言及してきました。これに対して、というべきか、内藤さん自身が作品のタイトルとして、〈母 型〉という言葉を選んでいますね。
内藤 その傾向については、私自身も不思議に思っています(笑)。どうも男性にとって、「母」は男性のために存在する対象であって、男性にしか「母」はい ない、と思っている節がある。でも女性だって細胞分裂で生まれてきたわけじゃなく、母はいますし、女性にとっての女性、という存在もある。それがなんなの かということを、まだ自分の言葉として解体したことがないから、説明するのは難しいんですが……。それに〈母型〉を一所懸命作るのも、私の中にそれがないからでしょう? 自分にないものだからこそ希求するわけだし、そこに男女の別は、本質的にはないはずです。それにもうタイトルなんか付けたくない、という 気持ちになってきているせいか、最近はポツポツと〈無題〉という作品が出てきています。本当のところ、〈地上にひとつの場所を〉も〈母型〉も、同じ意味だ と言ってしまっていい。それでも女性性に関わる問題は、自分から言わない限り気づいてもらえなさそうなので、〈母型〉という言葉で明示し始めたんです。
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来年1月末に予定されているコンテンポラリーアートフェア《G-tokyo2010》について、そろそろ情報解禁、ということなので、お知らせを。
この数年、日本でもそれなりに「アートフェア」が開催され、アートを売る、買うことの裾野が広がってきたとは思うが、広がったがゆえの「薄まり」感は否めない。焦点がぼけ、安手のバザー会場化しつつあるフェアも見受けられるし、一部ギャラリーにその種のフェアからの脱退の動きが顕著になっていることも事実だ。
この緩んだタガを締め直し、多少敷居を上げてでもクオリティを確保しようというのが、G-tokyo2010である。参加ギャラリーは厳選15軒(アラタニウラノ、ギャラリー小柳、ギャラリーSIDE2、ヒロミヨシイ、ケンジタキ ギャラリー、児玉画廊、小山登美夫ギャラリー、ミヅマアートギャラリー、オオタファインアーツ、SCAI THE BATHHOUSE、シュウゴアーツ、タカ・イシイギャラリー、TARO NASU、ワコウ・ワークス・オブ・アート、山本現代)、しかも各ギャラリーのブースは単に作品を並べるのではなく、それ自体企画展にもなっている、というもの。
実行委員会からは「隠し球があるのでお楽しみに」とも聞いているので、以後の情報も随時チェックしていただきたい。
追加情報(11月29日)
■ミヅマアートギャラリー
山口晃個展「柱華道(仮)」。景観を損なう嫌われ者として扱われることの多い電柱を、華道の様式に見立てて表現する。アサヒビール大山崎山荘美術館での個展〈さて、大山崎〉での発表作品をふくらませ、電柱に関するテキスト、ドローイングや初公開の立体によるインスタレーションを中心に展示する。
■タカ・イシイギャラリー
身近でありながら神秘的な現象「雨/Rain」に対し、それぞれ異なるアプローチを試みた3名の作家の作品を展示する。トーマス・デマンドは《Regen/Rein》において、雨をキャンディの包みで表現。メディアのつくり出す虚構が、我々の現実の認識に及ぼす影響を考察する。
また畠山直哉が2001年の英国滞在中に制作した《slow/glass》は、ボブ・ショウのSF文学に触発され、自動車の窓ガラスと雨を題材に、写真における「時間」の謎に挑んだ作品だった。今回展示される《slow glass/tokyo》では、建造物の窓ガラスと雨を題材に、時間、そして都市に生きる人間の心性を探る。
そして水滴に映り込む風景の美しさを追求したピーター・キートマンは、1950年代のヴィンテージプリント作品を展示。
■オオタファインアーツ
樫木知子(京都市立芸大博士課程)、猪瀬直哉(藝大油画専攻)、梅田哲也、さわひらき&南隆雄という、2008年3月に勝ちどきへ移転してから加わった若手作家中心の組み合わせ。
G-tokyo 2010
2010年1月29日(金)〜31日(日) 開催予定のコンテンポラリーアートフェア《G-tokyo2010》のコンテンツが一部決定いたしましたのでお知らせいたします。
《G-tokyo2010》は従来のバザー型フェアとはスタイルを異にする、明確なテーマに基づいた展覧会形式のユニークなアートフェアです。規模ではなく質の追求を第一とし、国内トップの15ギャラリーのみによって構成されます。鑑賞する楽しみ、質の高い作品を購入する楽しみとを、同時に体験できる場を演出いたします。
また《G-tokyo2010》は芸術の最大の理解者であり、芸術が常に空気のようにメゾンに溢れているエルメスを特別協賛に迎えました。
《G-tokyo2010》は世界のマーケットを知る国内のリーディングギャラリーがタッグを組んで作り上げた最先端のアートの現場。ここに足を運ぶことで、今何が起きているのかを体感していただけるはずです。アートに関心を持ち始めた方から経験豊かなコレクター、そしてアジアをはじめとする海外からのアートファンまでが参集する特別な場所を目指していきます。
【G-tokyo 2010 とは】
これまで国内で開催されたさまざまなアートフェアとは一線を画し、日本の現代アートの流れを牽引、世界規模のアートシーンに参画してきたトップギャラリーのみで構成される、コンテンポラリーアートフェア。明確な価値基準を持つ国内外のコレクターや美術関係者に、今まさにアートのフロントラインを形成しつつある作品を提供することを共通の目的に、第1回目は六本木ヒルズ・森アーツセンターギャラリーを会場に、国際的なアートマーケットのダイナミズムを肌で知る15ギャラリーが集結します。最大5×6mのゆったりとしたブースを設けて展示される、個展または企画展形式の15のギャラリーショウが、本フェアの見どころとなります。
■公式ウェブサイト
G-tokyo 2010
■会期
2010年1月30日(土)、31日(日) 一般公開、29日(金)はご招待者のみ。
10:00-11:00 予約制プライベートビュー(予定)/11:00-20:00一般公開(予定)
■会場
森アーツセンターギャラリー
(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52F)
■入場料
一般1,000 円(当日券のみ販売)
■主催
G-tokyo 2010 実行委員会
■特別協賛
エルメスジャポン
■協力
原美術館、森美術館、サントリー美術館、グランド ハイアット 東京
■メディアパートナー
アートイット
■参加ギャラリー
アラタニウラノ、ギャラリー小柳、ギャラリーSIDE2、ヒロミヨシイ、ケンジタキギャラリー、児玉画廊、小山登美夫ギャラリー、ミヅマアートギャラリー、オオタファインアーツ、SCAI THE BATHHOUSE、シュウゴアーツ、タカ・イシイギャラリー、TARO NASU、ワコウ・ワークス・オブ・アート、山本現代 (アルファベット順)
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「あなたが創りだす空気の色地図」 人工的に発生させた霧で満たした展示室をRGBカラーモデルにある赤、緑、青の三原色が照らし出す。色域が境界上で混ざり合い、移動するにつれて視野を占める色が移ろっていく。今回の展示のクライマックス。この作品を体験するためだけにでも、金沢へ行く価値あり。それにしても人工の霧をつくり出すドイツ製のhaze machineは優秀&不思議だ。「霧」の成分はなんなのだろう。湿度はほとんど感じないし、もちろん健康面でも問題ないというけれど…。オラファとしては館内全体を霧で覆いたかったようだが、諸般の事情で断念。一時的にその状態にして図録用の撮影を行っているので、図録の完成を楽しみに待ちたい。
オラファー・エリアソンによる大規模な個展 "Your chance encounter(あなたが出会うとき)"が、金沢21世紀美術館で始まった。
今展は開館5周年記念展として企画されたもので、SANAAによる建築の水平性、回遊性、透明性を生かし切ったサイトスペシフィックなインスタレーションが、新作を中心に18件展示されている。
オラファー・エリアソンは2003年、テート・モダン(ロンドン)のタービン・ホールで発表した《The Weather Project》によって一気に世界中で知られるようになった作家だが、日本ではまさにその03年、21世紀美術館開館時のコレクションに加えられてお り、06年には原美術館で「影の光」展も開催された。
オラファーの作品は光、影、色、霧、風、波などさまざまな自然現象を分解、再構成して人間の知覚を揺さぶり、認識の組み替えを迫る。
だがそれを「自然」現象という言葉で表現すると、少し印象が違うかもしれない。オラファーの作品に接すると、それは私たちが日頃、光、影、色、霧、風、波
という文学的なイメージと共に認識することがらとしてではなく、物理法則に従って生起し、感覚器によって知覚し、最終的に脳の情報処理過程で情動と連動さ
せながら認識している、気象、あるいは物理現象のひとつだったのだと、再確認させられる。
にもかかわらず、というか、だからこそ、というべきか、オラファーの作品には私小説風のウェットな物語性は微塵もない代わりに、優れた科学的知見や科学者自身が備えているのと同じ詩情が豊かに、霧のように立ちこめている。
いずれにせよ、生身の身体をその場におき、自らの感覚器で知覚しないことには理解できない作品ばかりなので、3月22日までになんとかして金沢まで足を運んでほしい。これほどさまざまなバリエーションの作品に、国内で触れることができる機会はしばらくないだろうから。
「スターブリック」 スタッキングできる照明。ドイツのツムトーベル・スタッフ社の製品で、1基30万円程度で販売されている。「おうちにひとついかが?」と勧められたが、1基だけあってもサマにならない。壁面にびっしり積み上げる、とかしないと…。
「動きが決める物のかたち」 精密なCGかと思ったら……
リアルな3次元の回転体を投影している。
「見えないものが見えてくる」 霧で満たされた縦長の展示室の端から、途中ガラスの箱を通過させた強力な光条が放たれている。その光の前を横切ろうとすると、物理的な圧迫感させ感じさせられる。
「色のある影絵芝居」 光源と万華鏡のような立体的なスクリーンの間に人が立つとご覧のような影絵が映る。
「ゆっくり動く色のある影」 オラファーは展示室内に「機構」をむき出しで設置するため、この作品も見てみれば拍子抜けするほどシンプルな原理に基づいて設計されたことがわかる。同時に作品化されるまでに気が遠くなるほど精緻な検証が行われたであろうことも。だいたい物理法則というのは単純な式で記述されるものほど深遠で美しいと相場が決まっている。E=MC2とか。
「水の彩るあなたの水平線」 展示室中央に水盤が設置され、そこから投射される(いったん水中で反射、屈折が起こっていると思うのだが)光が壁面に極光を描き出す。
「ケプラーは正しかった自転車」 ヨハネス・ケプラー(1571〜1630)はドイツの天文学者にして占星術師。「完全なる神は完全なる運動を造られる」として、コペルニクスやガリレオも脱却できなかった惑星の円軌道説を否定、楕円軌道説を提唱したわけだが、この作品はそのあたりに基づいているのでしょうか。作家に聞いてみないとわかりません(笑)。ちなみに主著〝Harmonice Mundi 〟は『宇宙の調和』として工作舎より09年に刊行された。ラテン語原典より本邦初の完訳。
図録は会期中に(たぶん)刊行される予定。オラファー自身が図録全体のディレクションを希望し、作品写真も設置の終わった一昨日(19日)に自ら撮影したそうだ。
もちろん巡回もない。共催できれば経費を分担できるため美術館としては楽になるのだが、この館のために(建築ばかりではなく、この館を包含するコミュニティ全体も含めて)企画された展示であるため、他館への移設は不可能であるとして、これもオラファーによって却下された。
Olafur Eliasson "Your chance encounter"
オラファー・エリアソン - あなたが出会うとき
2009年11月21日(土)~2010年3月22日(月)
10:00〜18:00 (金・土曜日は20:00まで/1月2、3日は17:00まで)
会場:
金沢21世紀美術館
展示室6〜12、14
休場日:
毎週月曜日(ただし、11月23日、1月11日、3月22日は開場)、
11月24日(火)、12月29日(火)~1月1日(金)、1月12日(火)料金:
料金:
一般=1,000円
大学生・65歳以上=800円
小中高校生=400円
お問い合わせ:
金沢21世紀美術館
TEL 076-220-2800
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木彫でリアルな植物(タイサンボクやテッセン、チチコグサモドキにいたるまで)を彫り出し、サイトスペシフィックな展示を行う現代美術作家の須田悦弘さんとは、2002年のBRUTUS「日本美術? 現代アート!」特集とAERA「ART BIT」相乗り企画で、唐招提寺の建築+仏像とコラボレートしていただいて以来のおつきあい。
AERAでは講堂(国宝)の柱に空いた古い釘穴に雑草を挿してもらい、BRUTUSでは梵天像(国宝)の足下に夏椿を置いて撮影。当時は10年がかりの金堂修復工事が始まってすぐ(2000年〜)だったが、こちらもめでたく今年の11月1日、落慶法要が営まれた。
大倉集古館での展覧会「拈華微笑(ねんげみしょう) 」で、普賢菩薩像(国宝)と雑草、というコラボ展示をしたのもこの年だから、須田悦弘×古美術、のスタート地点から見ていることになる。
以前から作品集があればいいのに、作ってくださいよ、という話は繰り返ししていたけれど、それが近いうちに形になるところまで漕ぎ着けた(あとはテキスト部分をお手伝いさせていただいている私が担当分を仕上げれば……)。
須田さんの仕事机。東京国立博物館で最近見てきたばかりの「紅白芙蓉図」(南宋、国宝)のポストカードや資料写真、彫刻刀、着採用の筆などが無造作に置かれている。
というわけで、先日須田さんの自宅兼アトリエにお邪魔したのだが、集合住宅でいかにご近所に迷惑をかけず材料を切り出すか、タイサンボクやシャクヤクなど、花弁の多い大型の花卉がどんな構造になっているのか、その制作のヒミツをいろいろ教えていただき、非常に楽しい取材となった。
鉈を材木(朴の木)に当てて、万力にセット。
締め付けていくと、木の目に沿って板が割れる。この薄板から花弁や葉を削り出す。床置きした材木を鉈で上から下へパカンと割るのでは、音が大きすぎるために編み出したワザ(笑)。
シャクヤクの花はこんな風に分解できる。茎と葉のパーツ。茎の中心に軸を差し込むようになっている。
花弁は1層、2層、3層に分かれており、1枚ずつ別々に彫った花弁を軸を中心に貼り合わせる。
組み立てるとこうなる。
須田さんが木彫にハマるきっかけとなった伝説の処女作は、植物ではなくなんと「スルメ」。久しぶりの「再会」だが、さすが「スルメ」感満点。
この作品を作ったのは多摩美の1年生の時。思いの外うまく彫れたことに気をよくして、本物のスルメの匂いまでつけたという。
やはり学生時代に彫った雑草。これにくらべれば、現在の作品には格段の技術の進歩が見て取れる。制作スピードもずいぶん上がったという。職人的な技術の進歩と、作家的な表現のコントロールの問題については、作品集内のインタビューにて。
卒業制作のタイサンボク。学生時代からこの花が好きだった。
卒業後、就職するか作家の道を進むか迷った須田さんは、とりあえず就職を選択。日本デザインセンターにグラフィックデザイナーとして採用されるのだが、その面接試験に持って行ったのが、この「スルメ」だった。ちなみにそのときの面接官の一人は原研哉氏。内心「大丈夫かなこいつ」と思っていたと、原さんから伺ったことがある。
結局デザインセンターはぴったり1年で退職、今日の作家・須田悦弘があるわけだが、その紆余曲折は作品集でお読みください。
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