仕事

あざなえるご縁。

取材帰りに神楽坂方面から飛来した怪電波に捕まり、日本料理店「來経(きふ)」へ。こちらは千葉学氏設計の集合住宅の1階を、オーナーご夫妻が料理店として経営されているもの。オーナーご夫妻の兄上であるNYクリスティーズの山口桂さんがイケメン建築家の友人と会食しているというので、乱入させていただいた次第。

桂さんのブログに詳細がレポートされているが、いらしたのはレム・コールハースの事務所でパートナーを務める重松象平さん。桂さんのブログの頻出メンバーなので、初対面でもよく知っている相手のような気分。ガチンコ建築話…になるはずもなく、昼間ご覧になったという歌舞伎から、桂さんがヤクザの事務所へ美術品の査定に行ったときのエピソードまで、爆笑に次ぐ爆笑の無礼講ナイト。

さて「あざなえるご縁」について先日内田樹先生がブログに書いておられたが、この山口桂さんはご一族揃って能と縁が深く、国立の生家には能舞台があり、奥さまも元能楽師。内田ご夫妻の話は「大倉源次郎さんからずっと聞いていて」、先日内田先生の奥さまが出演された舞台もご覧になっている。

一方、桂さんの父上で82歳になる桂三郎氏は国際浮世絵学会の会長(『BRUTUS』浮世絵特集の折にもご協力いただいた)、また合気道家で、かつて植芝道場で学んだ方だという。

ということは内田先生の師である多田宏先生とは相弟子ということか。多田先生と言えば、「地上最強の80歳」。桂三郎氏も未だに桂さんを片手で投げ飛ばす遣い手だそうで、「父の超克」という男子に必須の通過儀礼が、物理的には一生果たせそうにないと嘆いていらした。

その桂さんが6歳の頃から机を並べて学んだ幼馴染みのご学友で、『クラシック迷宮図書館』の著者、片山杜秀さんと、4月17日にトークショウをさせていただくのがウチの父こと高橋源一郎、という次第。もうホントに、人間はどこでどうつながっているかわかりません。あ、ちなみに私も『芸術新潮』で小さい書評記事を書かせていただきました。

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朝日新聞出版 『allora』第2号 特集 「飾る」京都、「侘び」の京都

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京都には──そして日本には
どちらか一方だけでは成立し得ない
2種類の美意識の系譜がある。
削ぎ落とし、控え、隠す「侘び」と、
色彩、意匠、光を加え尽くす「飾り」。
この両輪の美をコントロールした千利休、
長谷川等伯、伊藤若冲らを手がかりに
冬こそ、の京都を楽しみ尽くす。
(『allora』2号特集総トビラより)

朝日新聞出版の新創刊女性誌『allora』2号が、12月7日(月)発売になります。特集は「飾る」京都、「侘び」の京都、というわけで、京都特集。

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大徳寺高桐院(特集内の写真はすべて阿部浩氏)

あまた京都特集を謳う雑誌がある中で、『allora』では京都の寺社や離宮を訪ねる時のキーワードとして、「飾り」と「侘び」で分けてみた。日本の美だ の伝統だのを語るとき、思考停止した書き手ほど安易にワビサビと言いたがるものだが、「日本」や「京都」はそれほど単純にできてはいない。

ブルーノ・タウトは一方を激賞して一方を罵倒したけれど、桂離宮があれば、反対方向に日光東照宮あってこそ、の「日本」なのだ。

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深草・石峰寺の敷地内に置かれた石仏群。伊藤若冲が晩年、自らデザインし、寄進したもの。同時代の絵師、円山応挙も見学に来たことがわかっている。

それに私たちはまだ、「飾る」ことと「侘びる」ことを、多くの点で誤解している。わかりやすい進歩史観的な視点に立てば、単純なものが複雑化していく、つ まり「侘び」→「飾り」と考えがちだけれども、実際は人間を超えたものへの畏怖や崇敬を表現する、どちらかといえばプリミティブな様態としての「飾り」の 後で、削ぎ落とし磨き洗練させていく「侘び」が出現する。

より過激な書き方を選ぶなら、「侘び」は人為の限りを尽くした、「飾り」の最終形態とも言える。千利休の茶室が小さく簡素に見えるからといって、カンタン にできると思っていたら足下をすくわれる。簡素に見せるためにかけた手数(てかず)の多さは、あのゴテゴテ東照宮にさえ負けていない──と考えるべきなの だ。

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実相院名物、「床みどり」。磨き込まれた床に屋外の滴るような緑が映り込む。秋には真紅の「床もみじ」が堪能できるが、雪の降った日にのみ見ることのできる、凍った湖面のような景色も美しい。

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実相院内の襖絵。狩野派の絵師の手によるものだが、部分的にしか名前がわかっていない。この鶴図はアノニマスだが、非常によく描けている。必見。

そういう意味で、この特集では桂離宮を「侘び」部門にフィーチャーしているけれど、あれは究極の「飾り」系建築だよね、というのが、今回特集冒頭でわかり やすく「侘び&飾り」論を解説して下さった、茶人であり日本美術史家でもある千宗屋氏とお話ししての結論だ。いつか桂離宮/東照宮問題を本気で取り上げた いですね、と千さん。いいですねえ。楽しみ。

そんなこんなで、特集では桂離宮、大徳寺高桐院、仁和寺遼廊亭、妙心寺龍泉庵、正伝寺、実相院、園城寺勧学院、細見美術館、角屋などをご紹介。2010年 1月9日〜3月22日までの、文化財の「冬の特別公開」情報や、ご紹介した寺社の近くの美食情報、お土産物なども併せて掲載している。

寒いといえば寒いけれど、人も少なく京都が素顔を見せる冬こそ、旅のベストシーズンとも言える(食べものが一番美味しいのも冬だし)。ぜひ書店でお買い求めの上、旅を組み立てる際の参考にしていただきたい。

『allora』をamazonで購入。

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「椀一式」プロジェクト [2]  箱と重

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撮影:石井宏明(このエントリーすべて)



「椀一式」プロジェクトの第2部がこちら。第1部に引き続き、松屋デザインギャラリーで2010年1月27日〜2月23日に開催される。

依頼のあった当初、デザインコミッティーの間で話し合われたのは、以下のような内容だった。

「伝統工芸品に安易にデザインを持ち込むことには皆、抵抗がある。伝統の形は誰かが意図して作れるようなものではなく、人々の暮らしの中で積み重ねられてきた遠大な営みの賜であることを経験的に理解しているからである。(中略)日常の無数の行為の堆積の中に伝統の形は育まれてきた。だから当初、飛騨春慶を用いて何か新しいものをと請われた時には皆、二の足を踏んだ」

「なすべきはデザインではなく、飛騨春慶の素晴らしさを見立て直すことではないかという思いであった。特に箱の数々は簡潔で美しく、新たなデザインの余地など見あたらない。もしこれが売れないなら、造形ではなく、暮らしの中でそれらをどう使うかという見立てが不足しているからだ」単行本『椀一式』前書き(原研哉)より

最終的に第1部は昨日のエントリーでご紹介した「椀一式」を新たにデザインし、第2部は同じメンバーが、それぞれの目で製品を見立て、使い方を含めて提案するという構成になった。単行本も後半は「箱と重」として、この美しい箱の数々を写真とメンバーのテキストによって紹介している。 

   

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第662回デザインギャラリー1953企画展
飛驒春慶×日本デザインコミッティー 「椀一式 ー 使う漆器へ」
2010年1月27日〜2月23日
松屋7階・デザインギャラリー1953

東京都中央区銀座3-6-1 電話 03-3567-1211(大代表)
共催:日本デザインコミッティー、(財)飛驒地域地場産業振興センター、(財)岐阜県産業経済振興センター デザインセンター(通称:オリベデザインセンター)

展覧会担当:原研哉(プロジェクト+展覧会+書籍のディレクションを担当)
出展:飛驒春慶ひのき会
 代表:日進木工(株)代表取締役 北村 斉
 職人:中屋憲雄、西田恵一、滝村紀貴、矢島浩(日進木工)、他

参加デザイナー(日本デザインコミッティーメンバー):深澤直人、原研哉、岩崎信治、川上元美、小泉誠、黒川雅之、松永真、佐藤卓

■問い合せ先
日本デザインコミッティー事務局
東京都中央区銀座3-6-1松屋北館4F
電話03-3561-2572 F03-3561-6038 
e-mail:jdcommit@yb3.so-net.ne.jp
URL : http://designcommittee.jp/
担当:土田真理子、樋口珠由子

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「椀一式」プロジェクト [1]

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撮影:石井宏明(このエントリーすべて)



予告だけしてそのままになっていた「椀一式」プロジェクト、やっとご紹介できるところまでたどりついた。私自身は書籍の編集、執筆を担当している。

これは岐阜県の産業支援機関である(財)岐阜県産業経済振興センター デザインセンターの委託を受け、2008年度から日本デザインコミッティーが飛驒春慶塗の職人たちと商品開発に携わってきたプロジェクト。

一般的な漆塗として知られる黒漆、朱漆に対して、木目の美しさを見せる透明な漆塗の技法を代表するのが、飛騨の地に蓄積されてきた高度な木工の技術と質の高い木材、そしてそれを活かす透漆塗の技法とが五分で結びついた飛騨春慶である。

江戸時代初期に飛騨を領国とした大名・金森家から出た茶人の金森宗和とゆかりが深く、茶道宗和流と結びついて発展してきたが、近年では使われる場面が激減、衰退の一途を辿っている。

この春慶塗の可能性を追求すべく、日本デザインコミッティの8人が商品開発のプロジェクトに参加した。

ディレクションを担当した原研哉による制作のテーマは、「椀一式」。

重箱や茶道具のような、普段の生活から遊離した対象物ではなく、最も身近な「汁椀」であれば、無理な背伸びをしなくてもデザインできる。現代の日本の暮らしに最も密接な漆器は「汁椀」だからだ。どうせならそこにふさわしい「飯碗」を見立てて盆というステージに載せ、箸を添えて「一式」としてしつらえてみようという趣向である。

 日常使いの「汁椀」と「飯碗」ならば、少々値が張っても買い求め、日々の食卓に供するゆとりは持ちたい。日本人なら皆、潜在的にそう思っているはずだ。だからこれを「椀一式」のしつらいと称して、余裕のある大人の一つのたしなみとして提案する。おそらくは「夫婦茶碗」という言葉が陶磁器の世界で果たしてきたような、ささやかだが根強い広告効果のようなものが、「椀一式」という言葉にも宿るかもしれない。そんな風に考えたのだ。

単行本『椀一式』前書きより(原研哉)

深澤直人、原研哉、岩崎俊治、川上元美、小泉誠、黒川雅之、松永真、佐藤卓の8名が、この企画に参加。汁椀、箸、盆の3アイテムをそれぞれデザインし、飯茶碗は岐阜県内の窯から選んだ陶器を組み合わせている。

購入可能な8種類の作品は、2009年12月27日(日)〜2010年1月25日(月)まで、松屋7階・デザインギャラリー1953での飛驒春慶×日本デザインコミッティー「椀一式 − 使う漆器へ」展で展示され、展覧会と合わせて同タイトルの書籍も刊行される。さらに、2010年1月14日(木)銀座3丁目・アップルストア銀座で、原研哉、小泉誠らによるトークショーも開催される。

このブログでは真俯瞰の写真しかご紹介できないのだが、書籍では写真家・石井宏明さんが下から横から舐めるように撮影された作品写真、さらに下北沢の日本料理店「七草」店主、前沢リカさんに料理制作を担当していただき、それぞれの作品に盛りつけた状態で撮影した写真などをたっぷりご覧いただける。

さらに原研哉さんと平松洋子さん、黒川雅之さんと西田恵一さん(木地師)、滝村貴紀さん(塗師)による鼎談、小泉誠さんと佐藤卓さんによる対談なども収録され、読み応えも十分。展覧会と併せてお楽しみいただきたい。

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深澤直人

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原研哉

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川上元美

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岩崎信治

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黒川雅之

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小泉誠

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松永真

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佐藤卓


【展覧会】
第661回デザインギャラリー1953企画展
飛驒春慶×日本デザインコミッティー「椀一式 ー 使う漆器へ」

2009年12月27日(日)〜2010年1月25日(月)
松屋7階・デザインギャラリー1953

東京都中央区銀座3-6-1 電話 03-3567-1211(大代表)
共催:日本デザインコミッティー、(財)飛驒地域地場産業振興センター、(財)岐阜県産業経済振興センター デザインセンター(通称:オリベデザインセンター)

展覧会担当:原研哉(プロジェクト+展覧会+書籍のディレクションを担当)
出展:飛驒春慶ひのき会
 代表:日進木工(株)代表取締役 北村 斉
 職人:中屋憲雄、西田恵一、滝村紀貴、矢島浩(日進木工)、他

参加デザイナー(日本デザインコミッティーメンバー):深澤直人、原研哉、岩崎信治、川上元美、小泉誠、黒川雅之、松永真、佐藤卓

【書籍】
飛驒春慶×日本デザインコミッティー「椀一式 ー 使う漆器へ 」

発行:日本デザインコミッティー
ディレクション:原研哉
編集協力:橋本麻里
写真:石井宏明
出版社:実業之日本社
A6判/151ページ/2010年1月1日発売予定
販売価格:2000円前後

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世界で一番美しい傘。

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蛇の目(草色/男持ち)                


まず最初にお断りしておくが、この和傘は電話やインターネットでは「お取り寄せ」できない。石川県金沢市にある店まで足を運び、店主である職人に相対して、自分の望む仕様を伝えて完成を待つか、その時在庫であるものを購入するか、である。

別にお高くとまっているわけではなく、商品の性質上、また80歳をとうに過ぎた職人が独り守る店では、そうでなければ対応できないのだ。だが実際ものを目にすれば、この店の和傘がそれだけの手間と時間、価格に十分見合うものだとおわかりいただけるはずだ。

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黒輪(菖蒲色/男持ち/35,000円)


和紙を透過する光と色を操り、構造となる竹の骨にさえ意匠を凝らし、円形のフォーマットの中でグラフィックの冴えを見せつける。笠(柄がない庶民の生活用具)で足りるところを敢えて「傘」の贅沢をする江戸の町人文化として、傘のデザインは花開いた。江戸、京都、大阪、岐阜へと広がった産地の中で、金沢和傘の伝統を守るのは、松田和傘店ただ1軒である。

かつて和傘は約20種からなる工程を分業で製作していた。ところが洋傘が普及するにつれ、次々と職人が廃業。職人の松田弘氏は、竹を細く割り、骨を削る加工だけは専用の道具が必要になるため、岐阜の骨屋から仕入れているが、あとは構造を組み立て、紙を裁断して張り、油を塗って仕上げるまで、全工程の技術を修得し、製作を行っている。


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名称不明(武家の隠居や高位の僧侶が持つ/菖蒲色)

「傘が売れなかったから今日まで在庫が残ってしまった」手漉きの和紙は、なんと戦前から寝かせてあるストック。色味も風合いも、新品には真似のできない格を傘に与えてくれる。

年配の武家の男性が持つなら、黒と見紛う菖蒲色(あやめいろ)一色の傘。商家の奉公人なら家号入りの番傘だし、神職が持つ傘は白一色で、強度を出すために縁をかがる小糸の色と意匠で格式を演出する。

本来、色や形状は持ち手の社会的な立場に合わせて決まってくるものだが、そこは21世紀の有り難さ。いかようにも、自分好みのデザインで発注すればいい。

 

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元禄蛇の目(菖蒲色/男持ち/64,500円)

最初にこの店を訪れたのは、資生堂が顧客に送付するパンフレットの表紙スタイリングをやっていた2006年のこと。伝統工芸品をモチーフに、06年は上田義彦氏が、07年は青木健二氏が撮影を担当された。

初めて訪問した日、金沢は前夜からの雪は止んだものの、どんよりとした薄曇り。店先で何本も傘を開き、神職用だという真っ白い傘を手に取ったとき、どうしてもそれを陽光に透かしてみたくなり、松田さんのお許しを得て店の外へ出た。

雲の切れ間からわずかに漏れる光を、降り積もった雪がぼんやりと照り返す。油を塗って半ば透けた和紙が、その柔らかく曇った光を透過させるさまは、大理石の内部で光が乱反射している状態と、よく似ていた。

どこの伝統工芸品店でもあることだが、この種の「普遍的なデザイン」にたどりつくまで、加賀友禅の職人が花の絵を描いた傘だのなんだの、泣きたくなるほどファンシーな「売れ線商品」をかき分けていかなくてはならない。

ファンシーが売れて、普遍が売れないとなれば、マーケットの論理に逆らえない一職人が、ファンシー寄りの製品へ傾いていくのを止めることはできない。

私自身は職人にあれこれ注文をつけてオーダーし、身銭を切って製品を購入(だから『Casa BRUTUS』での「ニッポンの老舗デザイン」シリーズは常に稿料を製品購入代が上回ってしまう、「逆ざや」連載なのだ)することで、「こういう方がいいんじゃないの」という意志を伝えているつもりだが、それはやはりニッチな需要でしかないのだ。

というわけで、本記事をご覧になった皆さまが、オラファー・エリアソンの展覧会を見たついでに松田和傘店へ大挙して足を運び、スタンダードな蛇の目傘をじゃんじゃん購入していただけると、職人は収入が増え、日本の伝統デザインも生き延びられて八方ハッピー、なのだけれど、いかがだろう。

撮影:久家靖秀
Casa BRUTUS「ニッポンの老舗デザイン」第9回用に撮影していただいたものの中から未使用分も含めてご紹介。この湿度の低さが久家さんの持ち味です。傘がクール!

■松田和傘店
石川県金沢市千日町7-46●076-241-2853、9時〜17時、不定休 
オーダーは直接店に出向き、松田氏と詳細を打ち合わせて決定する。納期3〜4カ月。同じものを同時に2〜3本作っておくことも多く、その「在庫」で気に入ったものがあれば、すぐ購入できる。

参考図版:
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ちなみにこれが上田さん撮影のDMの表紙。手前の白い傘が神職用である。
縁をかがった緑の糸が、見えるだろうか。そういえば自分では購入しなかった
けれど、赤い蛇の目もありました。

 

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原研哉 「白」 meets Olafur Eliasson

オラファー・エリアソンつながりで、もうひとつニュースを。

グラフィックデザイナーの原研哉さんが2008年に刊行した日英併記の著作『』の英語版、ドイツ語版が、スイスの出版社Lars Müller Publishersから刊行されたのだが、その帯文はオラファーが書いている。

Today, we seem to be experiencing a rationalisation of the senses. The art of refinement has been half-forgotten, and attentiveness to detail, absorption, and slow engagement are neglected. In his captivatingly light text on the concept of “white,” Kenya Hara counters this tendency. His personal journey through concepts, objects, and practices such as emptiness, paper, and the Japanese tea ceremony not only opens up a field of heightened nuance and refinement. By melding everyday observations with reflections on Japanese aesthetics and sensitivity, he also amplifies the need to critically revise our understanding of the senses. This important little book thus challenges the simplifications that inform much present-day thought concerning what can be felt, experienced, and emotionally negotiated.

Olafur Eliasson

今日の我々は、五感を理屈で理解しようとしているように思える。感覚を研ぎ澄ますことを半ば忘れ去っている。細部にまで注意を払うこと、集中し没頭すること、ゆっくりと事を行うことを軽んじている。原研哉は、素晴らしく軽妙な筆致で「白」という概念を語りながら、こうした風潮に異を唱えている。エンプティネス、紙、茶道など、コンセプトやモノ、あるいは、実際の行動によって展開する彼の私的な旅は、研ぎ澄まされたニュアンスや洗練への地平を拓くにとどまらない。彼は、また、日々の観察に日本的な美意識と感性への思いを融合させることによって、五感に対する我々の理解を大きく修正する必要があることも知らしめている。この小さくて重要な本は、かくして、何が感じ取られ、実感され、情感を伴った交流がなされていくことができるかについての今日的な考え方をシンプルに伝えていくことにチャレンジしているのである。

前著『デザインのデザイン』の英語版『Designing Design』も同社から刊行されており、その時の帯文はリ・エーデルコート、ジョン前田、深澤直人、ジャスパー・モリソンの各氏だった(ちなみに『白』日本語版の帯文は内田樹、茂木健一郎の両氏)。

と、思ったらジャスパーが金沢でのオラファー・エリアソン展の二次会に来ていた。オラファーとジャスパー、エリアソンとモリソン、蟹をつつきながら仲良く話し込む脚韻コンビ。

ちなみに私は本作掲載の黒樂茶碗、長次郎「勾当」(樂美術館蔵)の撮影コーディネーションを担当している。撮影は上田義彦さん。 

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Lars Mueller Publishers, 2,658円、2009年12月1日


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中央公論新社/四六判/128頁/税込1,995円/2008年5月30日

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ガラス 虎の穴、三保谷硝子店。

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『Casa BRUTUS』での連載「ニッポンの老舗デザイン」用に、AXISでの「三保谷硝子店──101年目の試作」展(会期終了)と、西麻布の店を取材させていただいた(撮影しているのは写真家の久家靖秀さん)。故・倉俣史朗のデザインを支えた三保谷硝子店は、建築家やデザイナー、アーティストたちが大手のメーカーでは不可能といわれた難題に取り組み、見事に解決してきた日本随一の「ガラス虎の穴」である。

以下、日頃三保谷硝子店と交流のある17組が出展。アシハラヒロコ/五十嵐久枝/海藤春樹/川上元美/近藤康夫/杉本貴志/杉本博司/高松 伸/トラフ建築設計事務所/橋本夕紀夫/廣村正彰/藤塚光政/堀木エリ子/宮島達男/八木 保/山田尚弘/吉岡徳仁

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倉俣がかつてアクリルで制作した「ルミナス」を、最新の成型技術を用いることで、素材をガラスに置き換えて制作。三保谷友彦社長による「倉俣オマージュ」だ。自重で自然に垂下する曲面を作るのはカンタンだが、床と(ほぼ)並行の座面を作り出すのは、一筋縄ではいかない。


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カメラのレンズに使われる光学ガラスを砕いて板ガラスの直方体の中に閉じこめた、杉本博司による「ガラスの衝立」。三保谷硝子の作業場で、杉本さんがひとつひとつのブロックの形状や向きを指示しながら、積み上げていった。


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吉岡徳仁が使ったのは、プラズマTVに使われる特殊な電球をリサイクルしたガラス素材「パステル」。乳白色で半透明、まるで大理石のようなテクスチャーを持つ。


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三保谷硝子店作業場。

社長の三保谷友彦さんは揉み手でクライアントの我が儘を聞く「下請け」ではない。自店から素材を提供したクリエイターに対してであっても、手抜きや怠惰、勉強不足、 傲慢を厳しく叱咤し、ガラスという素材で何ができるか、彼を唸らせる発想を突きつけて来いと挑発し、激励する、厳しく誠実な職人なのだ。

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立て掛けてある板ガラスの間に挟んであるのは・・・

詳細はぜひ記事でお読みいただきたいが(『Casa BRUTUS』2010年1月号/12月10日発売予定)、特別に入らせていただいた店の4階にある「奥の院」、最先端の試作品を並べた部屋はすごかった。「こ、これどう なってるんですか!?」「ヒミツ(笑)」「ちょっとそのあたりを撮影させていただいてもいいですか!?」「ダメ(笑)」というやりとりがあったので、具体 的なことは一切書けないが、およそガラスに可能とは思えない加工や成型が施された「試作品」がごろごろしているのである。

ガラスにはまだまだ恐るべき可能性がある。扉は簡単には開かないだろう。だが本気で取り組みたいクリエイターは、どんな伝手をたどっても紹介者を探し、「一見お断り」の三保谷硝子店の門を叩いてみるといい。

追記:

仕事の話にはものすごくシビアな三保谷さんだが、鏑木清方とかスキなんだよねー、という柔らかな一面もお持ち。百貨店・松屋出入りの職方であるため、幼い頃からデパート美術展で日本画などを見る機会は多かったそうだ。

「清方の描く女性はホントに色っぽいんだよ。『築地明石町』なんか、いくらくらいするの?」って、いえ、切手の図柄にもなっているアレは門外不出かと。間もなくサントリー美術館で始まる「清方/Kiyokata ノスタルジア — 名品でたどる 鏑木清方の美の世界 —」展(11月18日〜2010年1月10日)の招待券を束でお送りしたが、広報のM浦嬢、ただちにオープニングへの招待状を差し上げて下さい!

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「そうだ 京都、行こう。」な日々。

11月1〜7日まで、珍しく長期の京都ロケ。これだけ京都に居続け、というのは、2004年に無印良品の広告キャンペーン「無印良品と茶室」の、撮影コーディネートをやったとき以来かもしれない。

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慈照寺・東求堂「同仁斎」、大徳寺玉林院「霞床席」、同「蓑庵」、大徳寺孤篷庵「直入軒」、同「山雲床」、武者小路千家「官休庵」という、名席撮りまくりのヘヴィな1週間だった(AD:原研哉、撮影:上田義彦)。

今回は明け方から日暮れまで撮影し、夜はホテルで別媒体の特集入稿。ということは、ブログを更新する余裕はほとんどない。なので、「そうだ 京都、行こう。」の1週間をざっくりプレイバック。刊行時期、媒体名などは、また後日お知らせします。

平等院鳳凰堂。

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屋根の上の鳳凰は現在はレプリカに替えられている。そこに最近よく集まって来るのが鷺。サイズも鳳凰に近いし、彼ら的になにか思うところがあるのかもしれない。

三千院。

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東京で木枯らし1号が吹いた日、京都もこの秋最高の冷え込みだった。どうせ今年も暖冬気味だろうと高をくくり(だってまだ11月初旬だし)、冬の寺社撮影の時は必ず持参する「防寒7つ道具」を持って行かなかったことを、骨の髄まで沁みる冷気とともに後悔することに。

個人的には京都の寺社参りなら、人気の少ない冬がベストシーズンだと思うが、特に足下の防寒対策はしっかりと。靴を脱ぎ、お堂へ上がって拝観するタイプのお寺には、登山やスキー用のインナーブーツを持って行くといい(ホテルの使い捨てスリッパでも可)。とにかく1枚履きの靴下やタイツ、いわんやストッキングでは足が冷えきって、拝観するどころではない。靴下に貼る用カイロも便利です。

浄瑠璃寺。

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ちょっとブレてて、すいません。もう暗かったので。池の向こうに阿弥陀堂。戸をすべて開け放てば、九体阿弥陀の輝きが堂外へ溢れる。

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敷地内に居候する野良猫。池の鯉が気になるらしい。カメラの前でも名演を披露してくれた。

建物も仏像も平安時代、と言われても、にわかには信じられないほどの状態の良さ。副住職さまのお話では、三方を山に囲まれ、目の前に池、という環境が温度湿度の変化を抑えたため、よい状態をキープすることができたという説もある、とのこと。はっきりした理由はわからないが、平安後期に盛行した九体阿弥陀を現在も見ることのできる、希有な寺だ。


清水寺。

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京都の、というより、日本でもっともメジャーな観光地。修学旅行以来、という人も、オトナになってからあらためて行くと感動できるはず。おしくらまんじゅう状態の参道の人ごみは、通過儀礼と思って、無念無想でくぐり抜けるしかない。にしても、膨大な観光客の重量を支え続ける「清水の舞台」が崩落する可能性はないのか。奥の院から見ると、何となく舞台が前のめりに見えるのだが……。


伏見稲荷。

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伊藤若冲の寄進した石仏(五百羅漢像)で有名な石峯寺のすぐ近く。真っ赤な千本鳥居には、寄進者の名前や住所がはっきり刻んである。有名なこの鳥居カットも、反対方向から見ると朱の肌に黒々と刻まれた文字がびっしりで、情趣もへったくれもない。そうしようとしてやった、というより、気がついたらそうなっちゃってた的な鳥居の群れは、下手な現代美術よりずっとクール。

もちろん行ったのは上記だけではない。上賀茂神社ではお目にかかった神職の方がなんと数年前にNYの武者小路千家のお稽古の会の世話人をされていたIさんで、マンハッタンでピザを食べた人と、「国宝の権殿拝殿撮りたいんですけど・・・」という話をする羽目になったり、鞍馬寺で日本一の美尼さまと遭遇したり(某有名尼「ジャッキー」とは全然違う)、さらにその合間に杉本博司さんと会ったり、細川護煕さんの個展を見に行ったり、まあいろいろあった。で、来週は「京都ロケ/セカンドシーズン」。

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BRUTUS 674号:真似のできない仕事術

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ちっとも「日本美術コンフィデンシャル」にならない今日この頃。

11月1日に発売された『BRUTUS』真似のできない仕事術、ちょこっと仕事をしているのでご紹介を。

我が身を振り返れば、ここ数年はON/OFFの区別なく、365日24時間営業で仕事に邁進する日々。大晦日も元旦も原稿を書き、出張以外の旅行はゼロ、白髪は増えるし歯はガタガタになるし救急車で運ばれた翌日も朝から取材に出かけなきゃならないし・・・という話じゃなくて。

それだけ打ち込んでも過労死しないで済む楽しい仕事に恵まれて、ホントにありがたいことですが、今回ご紹介する皆さんも、忙しく、機嫌よく、そして結果を出す仕事をしている方々ばかり。なんでそんなにナイスな仕事ができちゃうの? 仕事場はどうなってるの? 仕事の仕方、いや仕事ってなんなんですか? という、大人から子供まで、仕事する人なら誰でも気になる「仕事術」が満載です。

当たり前ですが、みんなやり方は違う。

誰にでも当てはまる、「こうすれば年収2000万円」みたいな仕事術はありません。そういう洗脳系ビジネス書が嫌いで、書店のビジネス書コーナーをスルーし続けてきた方は、ぜひ本特集を手に取ってご覧ください。

ちなみに私が担当したのは茂木健一郎さん。まだSONYのクオリアシリーズが現役だった頃の、『BRUTUS』でのタイアップ連載からの付き合いです。

校正がほとんど戻って来ないとか、打ち上げの席で捕まえないと打ち合わせができないとか、なぜかオールひらがなの緊急返信メールが来るとか(変換してる暇さえなかったんですね。合掌)、茂木さんの仕事ぶりは骨身にしみて存じ上げてますので、ここ数年の観察結果も反映しつつ、記事を書かせていただきました。茂木さん、ご協力ありがとうございました。次の仕事の時も、よろしくお願いします(笑)。


ちなみに自分自身の仕事三箇条(特集では全員にお聞きしています)の1は、「すべての仕事はつながっている」。あとの2つは今のところ思いつきませんが、「なんでこんな仕事引き受けちゃったんだろ」と思うような仕事が、あとでとんでもなく大きな、別の仕事を連れて来てくれる。海老で鯛、いや、クジラを釣るって感じでしょうか。

その理路は後にならなきゃわからないので、取りあえず現時点の自分にとって意味不明の仕事でも、可能な限り引き受けることにしています。3年後くらいに「あの時やっておいてよかった!!!!!」という局面が、必ず、ほぼ100%訪れるので。どんな仕事も無駄にはならない。効率いいなあ(まあ、視点を未来に置くか過去に置くかで、解釈は180度変わるわけですけど)。


特集に登場するのは、以下の皆さん。

松浦弥太郎さん『暮しの手帖』編集長
森本千絵さん コミュニケーションディレクター
茂木健一郎さん 脳科学者
遠山正道さん 株式会社スマイルズ代表取締役社長
幅 允孝さん ブックディレクター
束芋さん 現代美術家
中村ヒロキさん〈visvim〉ディレクター
多田 琢さん CMプランナー
企業としては、
安藤忠雄建築研究所
東京糸井重里事務所
SAMURAI(佐藤可士和)
スタジオジブリ

BRUTUS674号「真似のできない仕事術」600円

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杉本博司が天の岩戸を開く日。

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だばだー、じゃなくて(それは某コーヒー飲料)。

現在発売中の幻冬舎『GOETHE』12月号で、Sントリーさんによるシングルモルトウィスキーのタイアップ記事を書かせていただいた。グラスを回しているのは巨匠、杉本博司である。

巨匠とウィスキーとの来し方行く末については記事をお読みいただくとして、現在杉本さんが構想中の小田原「スギモト・ランド」の概要について、コンパクトにまとまっている部分をご紹介しておこう。これは財団法人として運営されていく施設になるのだが、先日この財団理事に就任予定の某氏の元に届いた就任要請&受諾文書に本原稿が引用されていた。著作権料の請求をしなくては(笑)。

「現在、真鶴付近の海にせり出した傾斜地に、美術館を含めた複合施設を計画しており、僕自身の作品や蒐集してきた日本美術を展示したいと考えています。ある精神的土壌で育まれた「形象」が古美術品であるとすれば、神事や、そこから発展した能や狂言、文楽という芸能は、同じ土壌に発する「行為」だと言える。この施設には、演劇でもあり、祭祀でもあったような、祝祭的な「行為」のための空間を作りたいのです」

 180度以上を海に囲まれた岬の頂上部が、杉本の構想する舞台。カメラのレンズの材料となる、透明度の高い光学ガラスで作られた能舞台が遙かに海面を見下ろす中空に浮く。コンクリートの隧道になった橋懸かりは、地下に設置された古墳の石室を思わせる劇場への通路にもなり、年に1度、冬至の日に昇る太陽の光だけがこの隧道を貫いて、今しもガラスの能舞台へ出ていこうとする役者へと届く。

完成はまだ当分先の話になるだろうが、ベネッセアートサイト直島での家プロジェクト「護王神社」のオープニング記念能「屋島」や、2005年「杉本博司:時間の終わり」展での特別公演・能「鷹姫」、先日のIZU PHOTO MUSEUM(杉本さんが建物・庭園を設計。現在オープニング展「光の自然」開催中)オープニングでの「文楽三番叟」など、やがて現前するはずの「行為」の予兆としての芸能公演は、いずれも非常に魅力的なものだった。

芸能の原初の歓びに満ちているはずの、来るべき祝祭。近代以降閉じられたままの、芸能史の岩戸が開く日となるかもしれない。

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